2008年12月8日(月)

ブッシュ政権下最後の6か国協議

 8日から10日まで北京で6か国首席代表会議が開かれ、核検証に関する合意文書の作成を目指す。核検証方法をめぐる米朝の溝が深いだけに合意が得られるかどうか微妙だ。

 第4回6か国協議共同声明(05年9月15日)では「朝鮮半島の検証可能な非核化」と「北朝鮮はすべての核兵器と既存の核兵器を放棄する」ことが盛り込まれている。また、検証のメカニズムについては08年7月10日〜12日に開催された首席代表者協議では以下のようなコンセンサスをとりまとめた文書が発表されている。

 @朝鮮半島の非核化を検証するため、6か国協議の枠組みの中に、検証メカニズムを設置する。

 A検証メカニズムは6者の専門家により構成され非核化作業部会に対し責任を負う

 B検証メカニズムの検証措置には、施設への訪問、文書の検討、技術者との面談、及び6者が合意するその他の措置が含まれる。

 C必要な場合には、検証メカニズムは、IAEAより助言及び支援を受けることができる

 D検証の具体的な計画及び実施は、非核化作業部会により決定される。

 ここで問題になるのが、検証方法の扱いだ。

 米国が要求する検証方法 @申告以外の施設の検証A事前通告なしの施設への接近、調査、サンプリング(試料)採取A必要な北朝鮮関係者へのヒアリングBすべての各施設及び運営関連の追加資料、記録の閲覧、原子炉活動日誌の提供です。また、検証にあたって、米政府はプルトニウム計画だけでなくウラン濃縮計画も含めたすべての核施設への立ち入りのほか、施設内にある空気や物質の試料採取を求めています。試料採取は、空気中の塵(素粒子)も集めて測定し、未申告活動の痕跡がないか調べるのが目的だ。

 ところが、北朝鮮は申告で言及した寧辺をはじめ約10カ所の施設への立ち入りや関係者へのヒアリングなどは基本的に認めているものの、大気や土壌のサンプル、試料採取には難色を示している。拒否の理由について申告書に記した38・5キロのプルトニウムの総量よりも実際には多く抽出していたことが判明するのを恐れているからだと言われている。

 北朝鮮は寧辺の原子炉で生成されたプルトニウム量は全部で38.5kgで、このうち核兵器の製造に26kg、核実験に2s、そして2sは廃物化(捨てた)とし、抽出されずに残存している量は7.5kgと説明している。

 これに対して、米国は1994年まで10s前後、2003年25〜30s、03年2月〜06年10月までの3年8か月稼動、18〜20kgと合計50〜60sを保有しているとみている。2キログラムでは核実験は困難で、北朝鮮は過少申告し、プルトニウムを隠匿しようとしているのではと米国は懐疑的だ。従って、北朝鮮のプルトニウムの量の申告が正確かどうかを検証するにはサンプル採集が不可欠だ。

 米国のサンプル採取要求に対して北朝鮮は10月にヒル国務次官補が訪朝して合意した米朝の約束にはサンプル採取は含まれていないとして、サンプル採集の文書化に強く反発している。それでも、金桂寛時間はシンガポールでのヒル次官補との事前接触終了後、この採取問題について「まだ結論は出ておらず、今後検討することにした」と若干含みを持たす発言を示していたが、北朝鮮は強気で、譲歩までして来月で任期が切れるブッシュ政権を相手に合意を急ぐ必要性を感じていないようだ。検証カードはオバマ政権を相手に高く売りつけたほうが得策と判断しているようだ。

 従って、今回の6か国首席代表協議ではサンプリング採取は、正式文書には盛り込まれないか、盛り込まれたとしても最終段階(破棄)に後送りされるか、あるいは非公開扱いの付属文書の中で処理されるという中度半端の結果になる公算が高い。

 検証と同時に無能力化の進捗も今回の協議の焦点の一つ。

 北朝鮮は07年2月13日の米朝合意に基づき、同年7月14日から寧辺にある核施設の稼動を中断し、11月1日からは無能力化作業を開始した。そして08年6月26日に核計画申告書を提出した。8月26日に米国がテロ支援国指定解除作業を米議会に通告するや27日には原子炉冷却塔を爆破した。

 無能力化については5メガワット実験用原子炉、放射化学実験室(再処理施設)、核燃料棒製造施設など寧辺にある核施設に対する11の無能力化工程のうち8工程が終了。残りの三つは、原子炉内の使用済み燃料棒の取り出し、未使用燃料棒の処理(海外搬出)、原子炉制御棒クドン措置の除去などで、現在は9工程目の使用済み核燃料棒の抜き作業がスローテンポながら行なわれており、8千本のうち60%にあたる4,800本が取り除かれている。原子炉炉心から使用済み燃料棒を取り出すと、元に戻すには1年はかかるといわれている。しかし、この作業も、他の5か国の北朝鮮への重油(100万トン)の支援が遅れていることを理由にはかどっていない。

 本来ならば、核施設と申告・無能力化と北朝鮮へのエネルギー支援を含む「第2段階」は10月末に完了するはずだったが、結局ブッシュ政権下では時間切れとなり、いずれも次のオバマ政権に委ねることになりそうだ。