2012年8月10日(金)

竹島問題での日本の効果的な対抗措置とは?

 日本では「李明博大統領がとうとう竹島に上陸した」との怒りの声が、方や韓国では「李大統領がついに竹島を訪問した」と歓迎の声が上がっている。まさに「上陸」と「訪問」という似通った表記こそ、領土問題をめぐって対立する日韓両国の立場を象徴している。

 李大統領は昨年も、休暇を取って夫婦そろって鬱陵島(ウルルンド)を旅行した際に竹島に立ち入る計画をしていたとのことだが、今回は私的な夏のバカンスではなく大統領としての公式活動である。

 日本国総理の靖国参拝をめぐっては公私に関わらず韓国は断固反対の立場だ。李大統領の竹島上陸も、これまた日本の立場からすれば、公私にかかわらず断じて許されないことだ。

 韓国の大統領は初代大統領の李承晩から、現在の李明博大統領にいたるまで延べ10人に上るが、このうち「反日大統領」として名高いのがおそらく李承晩、金泳三、そして前任者の盧武鉉大統領の三人だろう。

 李承晩大統領はご存じ、竹島の実行支配のきっかけとなった1952年の「李承晩ライン」の当事者であり、金泳三大統領は村山政権下の1995年、江藤隆美総務庁長官が「植民地時代に日本もよい事をした」と発言したことに激怒し、村山富市総理との首脳会談を拒否し、「今度こそ、日本の悪い癖をなおさせる」と対日強硬策を取ったことで知られる。

 そして、盧武鉉大統領も2005年2月22日に島根県が「竹島の日」を制定したことに「もうこれ以上、見過ごすことはできない。外交的に断固対処する」として、これまた首脳会談を含め日韓シャトル外交を中止してしまった。

 まさに3人とも反日色の強かった大統領であったが、それでも、禁断の地に足を踏み入れることはなかった。事の重大さを承知しているが故の自制であったのだろう。ところが、驚いたことに親日大統領としての評価の高かった李大統領があっさりと「暗黙の掟」を破ったのだから日本政府が受けた衝撃は計り知れないだろう。

 野田総理も、玄葉外相も「毅然たる対応を取る」として、武藤駐韓日本大使を召還する一方で、韓国の申駐日大使を呼び強く抗議した。しかし、こうした抗議は、韓国からすれば、想定済みで、痛くもかゆくもないと思っている筈だ。

 日本は「相応の対抗措置」を取ると言っているが、本来「相応の対抗措置」とは、野田総理がヘリコプターに乗って、竹島を訪問することだが、武装した韓国の警備兵が駐屯している状況下では現実的には不可能なことだ。

 日本はソウルで今月下旬に予定されている「日韓財務対話」の延期を検討しているとのことだが、この種の経済制裁はさしたる「対抗措置」とはならない。ほとぼりが冷めれば、開催されるのは目に見えているからだ。

 そもそも経済交流の中断など日本は韓国には経済制裁を科せない。北朝鮮に対する経済制裁とはわけが違う。

 日韓の貿易は700億ドル前後だが、日本の貿易黒字が300億ドルで、韓国との貿易、経済交流を止めれば、逆に日本の経済が大きなダメージを受けることになる。

 まして、韓国経済に占める日本の経済力は昔ほどではない。韓国が近年、日本よりも、中国にシフトしているからだ。

 中韓貿易は日韓貿易の約3倍の2000億ドルを軽く突破している。日韓貿易は1992年の310億ドルからこの20年間でたったの2倍。これに対して中韓貿易は63億ドルから30倍以上の伸びである。日本がせいぜいやれることと言えば、公務員に韓国の飛行機に乗らないようにする訓示するのが関の山だろう。

 対抗措置の一つとして国際司法裁判所への提訴もあるが「両国が共に合意してこそ、紛争解決の手続くに入ることができる」との日韓協定(紛争解決に関する交換文書)がネックとなっている。また、国際司法裁判所が日本の提訴を受け入れるかどうかも疑問で、仮に受け入れたとしても、前例がない以上、裁判で領土問題が決着付くか可能性は極めて低い。

 英国がアルゼンチンからフォークランド島を奪還したように海軍力が圧倒的に優勢な海上自衛隊による武力奪還というのも一つの選択肢だが、全面戦争を覚悟しなければ、とてもできない話だ。

 但し、韓国の実行支配を形骸化させるため一時単独で検討したこともある海底地質調査を名目に竹島海域に海洋調査船を入れ、それを警護、護衛する名目で海上保安庁の警備艇が入ることは可能だ。中国の警備艇が尖閣諸島周辺海域に頻繁に出入りしているように緊張が高まれば、高まるほど「日本との間に領土問題は存在しない」との韓国側の主張が説得力を失い、逆に国際世論に竹島の領土問題をクローズアップさせることはできる。

 肝心なことは、以下の盧武鉉大統領の2005年3月23日の国民向け談話をそっくり韓国側に返すことができるかどうかだ。

 「これまでは政府間の葛藤を招く外交上の負担や経済に及ぼす影響を考慮し、何よりも未来志向の日韓関係を考えたために自制してきた。しかし、(先方から)返ってきたのは未来を全く考慮しないような行動です。今はむしろ政府が前面に出なかったことが先方の慢心を招いたのではないかとの疑問が提起されている。これではだめなのでこれから政府がやれることはすべてやる。まず外交的に断固対応する」

 例えば、この談話に基づいて、韓国で政権が交代するまで李明博政権を相手にしないことである。今、北朝鮮が李明博政権に対して取っている手法である。

 例えば、9月にウラジオストクで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に韓国側から打診があっても日韓首脳会談には応じないことである。李大統領は日本の法律に基づけば、日本の領土に不法入国した言わば処罰対象の「不法入国者」である。相手が大統領であっても法治国家の日本の総理が、日本の法律を犯した「犯罪人」を相手に会談はできないだろう。

 そして、もっとも効果的なのは、金正日総書記との南北首脳会談を実現できなかった李大統領をしり目に北朝鮮との日朝首脳会談を画策することだ。

 韓国も、日本も、北朝鮮とは過去2度首脳会談があった。韓国は、金大中、盧武鉉と続いたが、李明博大統領で途絶えてしまった。南北関係の停滞は「失われた5年」という言葉がすでに囁かれるほどこれまた李大統領の負い目になっている。

 幸い、昨日終了した日本人の遺骨収集や墓参を話し合う日朝赤十字交渉が進展したことで、日朝政府間対話の道が開けた。

 小泉訪朝から10年目を迎える9月を機に金正恩新体制を相手に拉致問題解決に向け3度目の日朝首脳会談を仕掛け、実現させれば、李大統領へのこれほどのしっぺ返しはないだろう。

 果たして、野田総理にそれができるだろうか?