「時間稼ぎは決して許されない」
衆議院拉致問題特別委員会(2006年3月30日)


 拉致問題は、日本政府の意気込みにもかかわらず解決のめどが立たない状態が延々と続いている。今後、日本政府はどう対応しようとしているのか、3月30日に開かれた衆議院拉致問題特別委員会での質疑応答を掲載する。

 答弁者は麻生太郎外相、安倍晋三官房長官、小林武仁警察庁警備局長、梅田邦夫外務省参事官。(肩書きは当時)

 
△吉田六左エ門議員(自民党)


 ――拉致問題を風化させないよう議員立法で北朝鮮人権法案を策定している。政府の考えを聞きたい。

 安倍官房長官:与党において検討されている北朝鮮人権法案について原則として政府としてコメントする立場にはないが、政府に対して北朝鮮に対するルーツが与えられることになるわけで、北朝鮮と交渉する立場にある者としては、極めて有意義であると思う。

 ――万景峰号が4月11日から24日、5月8日、18日、30日、6月13日と入ってくる。10月6日までスケジュールが決まっている。船の入港禁止が一番の圧力になるのでは?

 安倍官房長官:最終的な圧力としては、特定船舶入港禁止法案の発動を含む経済制裁の発動である。しかし、それまでにさまざまな形の圧力がある。万景峰号の入港については、従来どおり、必要な検査、審査等を実施する。

●「条件が整ったので強制捜査を行った」


△池坊保子議員(公明党)


 ――我が国の警察当局が日本国内の拉致協力者を特定して、強制調査に踏み切ったのは初めてだ。今回の強制捜査がなぜ今、どのような意図で実施されたのか。また、警察はこの強制捜査でいかなる目的を達成しようとされているのか、伺いたい。

 小林警備局長:辛光洙(シン・グァンス)事件については昭和60年(1985年)6月に韓国当局が好評、事案が発覚した。原敕晃さんの国外移送目的拐取等の立件に向けて、警察はその当時から鋭意捜査したが、当時の段階では、国外移送目的拐取等による逮捕状の請求には至らなかった。警察としては、その後も本件事案の全容解明に向けて関連事項の捜査を鋭意継続したところ、平成14年(2002年)8月に至って、北朝鮮工作員辛光洙による免状等不実記載、入管法違反等、いわゆる辛光洙事件の背乗り部分と言われる部分について立件した。しかしながら、このたび、一つは、韓国裁判手続きにおいて作成された公判調書の証拠化の可能性に関する最高裁決定が出たこと、それから二番目に、日朝首脳会談において北朝鮮が拉致行為を自認したこと、三番目に、関係者の供述等により、拉致被害者が北朝鮮に連れて行かれた後の状況がかなり明確になってきた。こんなことが、本件事案について、捜索を行うだけの条件が整ったというふうに考えている。そこで、3月23日に警視庁公安部が在日本朝鮮大阪府商工会等6カ所に対する捜索を行ったところだ。このたびの捜索によって押収した証拠品の分析や国内協力者に対する捜査を継続しているが、今後の主犯格である辛光洙を初めとする被疑者に対する国外移送目的拐取等の立件を視野に入れて、引き続き鋭意所要の捜査を継続し、さらなる拉致容疑事案の解明に向けて努力していく。

 ――辛光洙には16名にも及ぶ協力者がいたと聞いている。警察当局では、こうした協力者のネットワークの全容解明を進める方針と聞いているが、ネットワークの摘発などの強制捜査が拉致問題の解決についてどのような効果を発揮すると考えているのか?

 小林警備局長:辛光洙なりチェ・スンチョルという主要な工作員が、補助工作員を使って事件を起こしているということで、これら工作員というものは、日本にかなり知見を有する、かつ支持基盤というものを持っている。それから、あらゆる部分については相互に乗り入れている部分もあるように我々としては感じている。それは、これから解明する部分であるが、いずれにしても、この事案の全体の解明ということについては、そういったいわゆる指導した部分、それから実行した部分、それを補助、支援した部分というようなものはやはり解明していかなければならない。これから全容解明に向けて努力したい。

 ――米国の北朝鮮に対する経済制裁を日本はどのように受け止めているのか?

 麻生外相:昨年9月15日のバンコ・デルタ・アジアの件はかなり影響があったことははっきりしていると思う。定量的にちょっと証明するのは難しいことは了解してもらいたい。(この銀行では)何もただ金を引き下ろしただけでなく、いろいろな意味のロンダリングを全部ここでやっていたようだ。こうしたことが止まることによって影響が大きいから6者会談に参加拒否等の対応しているのではないだろうか。資金の洗浄というものをさせない、これは何も北朝鮮に限らず世界中に対して皆公平にさせないという、いわゆる法をきっちり執行した結果がこのバンコ・デルタだと思う。非常に効果があると思っている。日本の場合も同じように、似たような話がかつての近畿の朝鮮銀行なんかいろいろあったけど、今話題になっている固定資産税の話というのは、これは今自民党の中でも新しい税制調査会等でいろいろ話題になっているところである。これは各地方で個別に、市ごと、各県ごとにやっているところもあるが、これは地裁で敗訴したり、負けたりした例もあるので、そこのところはきちんとやらないと、現場を担当している者は持たない。固定資産税というのは、これは税金の話だから、まともな方法の一つだと思っている。いろいろ考えはあると思うが、これも大事な圧力の一つだと思う。

●「圧力のための圧力でなく、対話のための圧力だ」


△松原仁議員(民主党)


 ――横田めぐみさんの偽遺骨が発覚したときに、官房長官は誠意ある速やかな対応を取らなければ厳しい措置を講ずるといった状態から既に1年が過ぎている。本来であれば、経済制裁に踏み切るタイミングだ。官房長官の考えを聞きたい。

 安倍官房長官:最終的な圧力としては、いわゆる経済制裁をかけていくことだと思う。法律による経済制裁をかけていくことではないかと思っている。それに至る過程においてさまざまな圧力があり、国際社会の場において、北朝鮮における人権問題について認識を共有すべく日本が主張し、そして国際的な圧力をさらに高めていくという手段がある。同時に国内においては、法の厳格な適用という形によって北朝鮮に対して圧力を強めていく、このために法執行のチームをつくったところである。我々は対話と圧力によってこの問題を解決していきたい。要は、圧力をかけるための圧力ではなくて、問題を解決していくために圧力をかけていかざるを得ない、こう考えている。同時にまた、これは最終的に対話によって解決していかなければならない。このバランスが大切ではないか。こう思っている。

 ――米財務省がなぜ、北朝鮮に対して経済制裁を実施したのか、聞きたい。

 梅田参事官:米国の財務省は、北朝鮮が当該銀行を通じてマネーロンダリングをしている疑いが強いということで、いわゆる米国の愛国法第311条に基づき、そういう行為をしている疑いのある銀行として指定したわけだ。

 ――米国がバンコ・デルタ・アジアに対する制裁をする段階において、日本側に何らかの話はあったのか。何らかの共同の行動をしようという話があったのか?

 安倍官房長官:日本と米国は同盟国である。北朝鮮の問題については認識を同じくしてしっかりと歩調をそろえて対応をとっていく。核の問題についても、ミサイルの問題についても、安全保障の問題についても、また、拉致の問題についても、お互いに情報を交換し、協力をしていくことになっている。当然、そうした情報交換の一環として、我々は、いろいろな情報を米国側から事前に供与、内報されている。

 ――拉致問題というのは時間との戦いである。いつ頃までに仕上げるつもりなのか?いつ頃までに解決したいと思っているのか?

 安倍官房長官:この問題を解決するためには、北朝鮮がこの問題について解決するという意思を決めなければ、今までの対応を変えなければ、またある意味では政策の変更をしなければ、北朝鮮は今の問題、経済の問題あるいは食料の問題を解決できない。そして、さらに今の状況が悪くなる。この問題を解決すれば、国際社会から受け入れられる、そして新しい未来が開かれていくということを理解させなければならないと思っている。だからこそ、理解させるための対話であり、そして、今の状況よりも悪くなっていくということを感じさせるためには圧力であり、このように思っている。我々も時間をかけるわけにはいかない。北朝鮮には我々の救出を待っている日本人がいるわけである。13歳のときに人生を奪われためぐみさんの人生を取り戻さなければならない。その思いでしっかりと対応していかなければならない。残念ながら、これは相手があることなので、いつまでにということは我々の口から言えないわけだ。時間稼ぎは決して許さないという姿勢でいかなければいけない、つまり、時間稼ぎを許さないということは、対話のためだけの対話は行わないという姿勢で臨みたいと考えている。

●「再調査の継続を求めている」


△笠井亮議員(共産党)


 ――安倍官房長官は1月27日の当委員会で政府として、北朝鮮側の言う再調査は十分ではない、また、特殊機関の壁を理由にこのまま真相究明が進展しないということは決して受け入れられないと、今後立ち上がる日朝協議で具体的な措置を求めると言った。いかなる措置を求めるのか?

 安倍官房長官:先日の協議においても、我が方より、特殊機関の関与という事実は真相究明を妨げる理由にはならないとの旨指摘し、特殊機関による行為を含めて調査できる権限、体制による再調査を継続するよう強く求めた。

△重野安正議員(社会民主党)


 ――小泉総理は9月で退任する。その限られた時間の中で、小泉総理が結んだ平壌宣言がいかなる展望が今後の日朝関係において与えるのか、あるいは与えるべきそれに向かっていかなる努力をしているのか?

 麻生外相:相手のある話なので、この平壌宣言を確実に履行せしめるように私どもも努力している。なかなか誠意ある対応が得られないという状況で、いわゆる対話と圧力という言葉に繋がると思うが、いずれにしても、時間との競争であるが、成果を無理に得ようとして、妙にこちらが原則をゆがめても成果を得ようというのは愚かだと思っている。時間との競争であるが、基本的な原則を平壌宣言に基づいて、きちんと、辛抱強く、粘り強くやっていかなければならない。◆