「日朝外交交渉の有力カードになる」
衆議院財務金融委員会での経済制裁論議(2004年1月28日)


 第159回国会衆議院財務金融委員会で北朝鮮に圧力を加えるための外為改正法が成立した。これにより日本政府は北朝鮮に対する経済制裁カ−ドを手にすることになった。  法案が可決された2004年1月28日の財務金融委員会での審議(概要)を掲載する (質問者及び答弁者の肩書は当時)

 中塚一宏(民主党):外為法の一部改正案がようやく審議され、多くの皆さんの賛同を得て、提出され、また審議されることを喜ばしく思っている。今回は、三党の共同提案という形で国会提出となったが、おのおのの党で検討されてきた課題と思う。せっかくの機会なので、法案提出の経緯について各党の提案者の方から一人づつ経緯を述べていただきたい。

●外為法改正案の提出理由


 水野賢一議員(自民党):まず、自民党の中で一昨年12月に対北朝鮮外交カ−ドを考える会が結成された。若手の有志衆参両議員が集まった。全部で6名。今特に北朝鮮情勢ということを念頭に置いているわけではないが、経済制裁を発動する時には現行法では発動をなかなかしえないのではということを考えて、議員たちで案をまとめた。修正も加わって、昨年7月に総務会を通過して、正式の決定となった。

 渡辺周議員(民主党):我が国にとって当面する最も安全保障上、あるいは国家の主権を侵害する脅威として存在する隣国の様々な我が国に対する行為について何らかの形で我が国として意思を表示するとすれば、これは経済制裁であるということで発案された。

 上田勇(公明党):昨年春頃から自民党での検討状況を見ながら、現行制度の問題点などについて検討してきた。昨年6月から7月にかけて自民党、公明党の間での協議を進めてきて、制式の手続きについては昨年12月に終了した。

 中塚議員:財務大臣と与党の提案者に伺いたい。今回も議員立法ということになり、政府提出案ということには至らなかった。どうも、政府はこの問題では腰が引けているのではとの印象を持たざるをえない。政府提出法案にならなかった経緯について聞きたい。

 谷垣禎一金融担当大臣:各党におかれて、北朝鮮に働きかけていく場合の日本の外交の選択肢を広げる必要があるということで議論をいただいたという経緯があるので、それで議員立法になった。 水野議員:政府が提出しなかった理由についは把握していない。ただ議員立法になったということは、国内に、立法府を中心に強硬な声があるということ、これ自体がメッセ−ジである。政府が対外交渉の切り札や駆け引きの材料に使えるので議員立法という形を取ったことは自然な形で、むしろ良かったと思う。

 中塚議員:国会承認が盛り込まれた意義についてどう考えているのか民主党の渡辺提案者に伺いたい。

 渡辺議員:経済制裁は一種の強制力の発動の行使であるので、その目的は、我が国の意思を強要する、相手国に対して、被制裁国に対して強要することになる。重い責任を我が国は決断するわけで、当然、国家の最高機関である国会で審議し、国民につまびらかにする。そして、その結論についても承認することになれば国会が連帯責任を負う、また、閣議、内閣がもし行き過ぎがあれば、その点についても厳しくチェックする。様々な意味において国会の関与を義務づけた次第だ。

●送金停止の効果


 中塚議員:経済制裁を我が国が単独で取りえるというのが法改正であるが、我が国が単独で行うことになった場合、第三国経由で送金が行われれば、実効性に乏しいのではとの意見もある。財務大臣、水野提案者、渡辺提案者に伺いたい。

 谷垣大臣:送金の場合、第三国を経由していく場合もある。幾つかの国で連携してやった方が効果が上がるのは当然と思う。

 水野議員:抜け道があるとの指摘があっても、国としては制裁を打ち出すという一つのメッセ−ジを出すことに意味がある。相手側に対する心理的影響は大きいと思う。送金の場合は迂回という可能性はあるが、貿易の場合は、かなり効果があると思う。

 渡辺議員:外交交渉を進めていくうえで、送金停止という形でまず第一弾の意思表示をする。その次には例えば貿易の停止であるとか、その後の様々な、所管大臣が許可しないあるいは承認しないという形で為替の移動のみならず、資本の移動ということに対しても段階的に、当然のことながら、制裁を続けることができる。私自身は、外交交渉を有利にしていく上での有益なカ−ドになると思っている。

 中塚議員:経済制裁の実例について財務省から聞きたい。

 渡辺博史財務省国際局長:制裁措置を取る場合の要件は二つある。第一が、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するための必要がある場合。例えば、クウェ−トに侵攻した直後のイラク、あるいは民間航空機を爆破をした後のリビアのケ−ス。二つ目の例は、国あるいは地域に着目した措置になっているが、タリバンあるいはテロリストに対する資金供与を止めるという意味での安保理決議があった場合である。

 中塚議員:この法案が通ることによって北朝鮮に何らかの変化を期待できるのか、水野提案者と渡辺提案者に伺いたい。

 水野議員:北朝鮮の場合は、財務省が把握しているだけで日本から年間に40億円の送金がある。金融機関を通じたものと、携行して行くものを合わせが額である。貿易額で言うと、日本にとっての対北朝鮮貿易というのは非常に小さい。日本の全貿易の0.1%以下で、北朝鮮にとっては2割弱ぐらいになる。日本は中国、韓国に次ぐ第三番目の貿易相手国である。そういう意味で一定の規制を加えるということは、彼らにとって一つの脅威であるかもしれない。効果というものは期待しえる。

 渡辺議員:イラク制裁の、例えば貿易あるいは送金等のデ−タ−を見まして、大変一年、二年の間に激減をするわけで、これは、一国の経済運営においてはかなりのダメ−ジを受けることになるだろう。そして、その間、対話と圧力、圧力をかけながらも対話によってさらなる相手国の何らかの変化を求めることは期待できるだろうと思う。

●「宣戦布告」への反論


 中塚議員:金正日政権は「経済制裁は軍事行動の一歩手前である、宣戦布告とみなすと言っている」。このことについて外務省、そして、水野提案者、渡辺提案者の見解を聞きたい。

 逢沢一郎副大臣:一般的に、非軍事的な措置として実施される経済制裁と直接的な軍事行動とは異なる。国際社会の一員として責任ある行動をとるよう求める趣旨で経済制裁を科せられた国が政策を大きく変更する、そういう場合、経済制裁が解除される。それのみならず、様々な支援を国際社会から受けることができる。そういう事例に学ぶとすれば、経済制裁は必ずしも軍事行動の一歩手前であるという指摘は当たらないと思う。しかし、相手国の状況によっては、かなり緊張が高まるというか、紙一重という言葉が適当であるかどうかわからないが、そういう状況を招来する場合もあることは可能性としては決して否定できない。

 水野議員:経済制裁というのは、決して宣戦布告でもなければ、軍事制裁でもないのであって、むしろ経済制裁というのは、戦争とか軍事的手段によらず平和的に物事を解決する一つの手段である。何か、戦争挑発をしているかのように彼らが言うとすれば、非常に不当な金正日政権の言い分だと思う。

 渡辺議員:この議論をしていく中で、当然、私どもの党の内部の議論でも、これは、経済制裁を発動するということは非常に緊張の高まることであって、一触即発の状況で、経済制裁を発動し、例えば、資産の凍結や、送金の停止や、臨検とか、あらゆることが起きるというのは、これはかなり軍事的行為の一歩手前にエスカレ−トしていくのではとの指摘もある。だからこそ、我々はこのカ−ドが使われないことが望ましいと考えている。しかし、ブラフに屈するべきではない。

 中塚議員:経済制裁というものが成功したか、不成功だったのか、ちゃんと判定する基準についても今後の議論を通じて明確にしていかなければならない。

●共産党の改正案反対理由


 佐々木憲昭議員:拉致問題を国際的な課題にしていくことについての提案者の認識を聞きたい。

 水野議員:この法案が、各国との協調というものを決して否定するものでない。

 佐々木議員:北朝鮮はビルマ・ラング−ン爆弾テロ事件、大韓航空機事件など濃く抱いてきな無法行為を繰り返してきた。拉致問題も、そういった国際的な無法行為の一つである。私たちは、この問題を解決するためには北朝鮮の無法行為全体の清算を求めていくという課題の一つとして位置づけ、国際社会全体の取り組みにしていかなければならない。そういう点で6か国協議が大変重要だ。昨年8月に6か国協議が行われて、6項目のホスト国総括が行われた。外務省に6項目の内容紹介してもらいたい。

 斎木昭隆外務大臣官房審議官:第1回会合のホスト役を努めた中国の王毅外交部副部長が六つの点を参加国の一致した点であるということで口頭で取りまとめた。一つ、対話を通じて核問題を平和的に解決し、朝鮮半島の平和と安定を維持する。二つ、朝鮮半島の非核化を目標とし、北朝鮮側の安全に対する合理的な関心を考慮して、問題を解決する必要がある。三つ、段階を追い、同時的または平行的に、公正かつ現実的な解決を求める。四つ、平和的解決のプロセスの中で状況を悪化させる行動を取らない。五つ、対話を通じ相互信頼を確立し、意見の相違を減じて、共通認識を拡大する。六つ、協議のプロセスを継続し、可能な限り早期に外交ル−トを通じて次回会合の場所と日時を決定する。

 佐々木議員:私は「6者会合の参加者は、平和解決のプロセスの中で状況を悪化させる行動を取らないことに同意した」との4項目目が非常に重要だと思っている。日本も当事者として参加して同意したものである。そういう状況のもとで、現在提案されている日本単独での経済制裁の法案を準備するということは、この6か国協議で国際的に約束された内容に反するというふうに考えているので、私どもはこの改正案に反対する立場を表明しておきたい。◆