拉致から工作船、万景峰号まで
衆議院外務委員会(2002年12月13日)


 2002年12月13日に開かれた衆議院外務委員会ではマスコミに登場している北朝鮮工作員と称する青山健熙氏の発言の信憑性の問題や北朝鮮に対する食糧支援の可能性、さらには拉致問題に関して集中的に論議された。

 また、同年12月5日に開かれた安全保障委員会では北朝鮮の工作船や万景号に関する討議もあった。以下、主なやりとりを掲載する。

 (外務委員会での政府答弁は川口順子外務大臣、茂木敏充外務副長官、安倍晋三官房副長官、増田0也法務省入国管理局長、安全保障委員会での政府答弁は川口順子外務大臣、石破茂防衛庁長官、深谷海上保安庁長官、藤原財務省審議官=肩書は当時)

●元北朝鮮工作員参考人招致問題


△今村雅弘議員(自民党)


 ――11月20日の参考人承知の件だが、青山健熙さんの参考人承知でもめたのは幾つかある。その後いろいろ調べてみると、呼ぶのはまずいとの判断に至った。私もいろいろ調べてみた。彼の著書「北朝鮮という悪魔」をみたが、これはちょっとどうかという不審な点が幾つかあった。それで呼ぶのはまずいという判断に至った。「安世明は私に闇ル−トでパスポ−トを作ってくれた」と堂々と書いている。こういうことが許されるのかどうか、警察当局か、法務当局に聞きたい。

 増田入国管理局長: 一般論で言えば、有効な旅券を所持せずに本邦に不法入国した疑いがあれば、所要の調査を行う。

 ――所要の調査をきっちりとやってもらいたい。本には108ミリ曲射砲云々というくだりがあるが、重さが2.3トン、これを人力で動かすとか、斜面に持ち上げるとか、日露戦争でも、二百三高地でもこんな話は聞いたことはない。こういうことが平然と語られている。青色レ−ザ−探知機による潜水艦の探知といったくだりがあるが、防衛庁に聞いても、こんな話を聞いたがことがないとのことだ。明らかに嘘が書いてある。北朝鮮での活動歴、これも本当かなという疑問を持たざるを得ない。なぜこういう人物を天下のマスコミ、テレビ等で大々的に大きく扱うのか、理解できない。某政党(民主党)の集会でこういった方を呼んで、神妙な顔をして聞いていたようだが、滑稽千万と言わざるをえない。

●北朝鮮の人権問題


今村雅弘議員(自民党)


 ――最近テレビなどで北朝鮮脱出者の証言などが基となり北朝鮮の収容所で虐殺が行われていると報道されている。北朝鮮の人権侵害の現状についての外務省の見解を聞きたい。

 茂木外務副大臣:北朝鮮の国内事情については不透明な点が多く、人権状況について明確な認識を持つのは容易ではないが、政府としては大きな関心を持っている。北朝鮮の人権問題については国際世論を喚起していくことが大変重要だと考えている。

 ――北朝鮮の国内問題に対処するには中国との協力体制も必要だと思う。日本からの働きかけに対する中国側の反応を聞きたい。

 川口外相:中国の立場もあるので、具体的に述べるのは控えさせてもらいたい。

●拉致問題の全面的解決とは?


△首藤信彦議員(民主党)


 ――拉致問題の全面的な解決とは何か?

 安倍副長官:政府としては、警察庁が認定している10件15名の方々が拉致被害者として確定されていると考えている。その中で5名の方々は日本に帰国を果たした。しかし、彼らの家族は北朝鮮に残されたままだ。私どもとしては、5名の方々が自由な環境で意思を表明できる、その環境をつくっていく、それが国としての責任である。ですから当然、この方々のご家族を日本に連れてくる、それを北朝鮮側に要求しているところだ。亡くなったと言われている8名については先方の情報だけでは、死亡したと認定するわけにはいかない。(死亡を)認定するに値する資料、情報を出してもらいたい、その安否を政府の責任として確定したいと、先方に要求しているところだ。先方もわからないと言っている残りの2件についても今問い合わせをしているところだ。それ以外に可能性があるかどうかについては今、捜査当局が検討しているところだ。それと、拉致を行った人らが一体どうなったのか、当然処罰がなされなければならないので、そのことも要求している。

 ――5人の家族の問題が解決しないと日朝の正常化は全然進めない、進ませないということか?

 安倍副長官:5名の家族が北朝鮮に残されたままでは正常化交渉を進めていくわけにはいかない。我々はまずこの問題については検討したいということで引き揚げたわけで、その姿勢については変わらない。もちろん正常化交渉の場において、また安全保障の場において、包括的に他の問題も、当然重要な問題なので、協議しなくてはならないが、拉致問題は当然プライオリティ−がトップであるということだ。

●対北食糧支援問題


 ――新聞紙上では食糧支援が急浮上しているが、日本は今すでに2百万トンの米の備蓄があって非常に困っている。その半分近くをいままで出してきたわけだが、またぞろこういうことになれば私は、この米支援問題こそが拉致問題の解決にとって最大の障害となっていた。一方では拉致問題に落としどころがないと非常に強いことを言いながら片方では食糧支援が急浮上している。この辺に関して安倍副長官は言葉を濁して明確に答えていない。拉致問題と関連してもそうだが、食糧支援はないと理解してよいか?

 安倍副長官:食糧支援についてはWFPのアピ−ルがあったということだが、我々としては支援することは全く検討していない。

 ――(北朝鮮のミサイル輸出について)これからはやらないというのが平壌宣言ではないのか。しかし、現実に今もやっているではないか。世界の平和にも我が国に対しても間接、直接的に脅威が出てきている。どうして長い目でゆっくり見てあげようと言えるのか?

 川口外相:長い目で善意を持って見てあげようとは言っていない。平壌宣言を相手に遵守させる、この過程によってこのプロセスを経て問題の解決をしようということだ。

 ――例えば、強制手段、あるいはどういう経済手段をもってそれが実行可能なのか?

 川口外相:国際社会が知恵を出し合ってこういった問題を解決していくことが重要だ。

●金正日体制について


△中川正春議員(民主党)


 ――金正日体制、これは日本にとって、この体制を持続していきながら付き合っていくということが正しいことなのかそれとも、この体制がある限りアジアの平和は来ないという基本認識に立って進めていく方法、どちらが良いのか、私はどちらかというと、後者のほうが正しいと思うが。

 川口外相:北朝鮮が我が国の燐国であるという事実、その中における政権がさまざまな不透明性を持ち、必ずしも我が国と基本的な価値、考え方を共有していない国であるという事実はある。それが国際的にみて現在この地域で安全保障上の不確定性が高まっている状況にあるという一つの原因であるとの認識はある。

 ――だから、金正日体制が変わっていくことに対して余り期待せずにいかにこの体制を弱体化させて、最終的に政権を交代させるという流れにもっていくこと、このほうが正しいのだろうと思う。

 川口外相:我が国は日朝平壌宣言を署名し、それを守り、国交正常化を進めていく、そういう立場だ。国交正常化が可能になるまでの過程でさまざまな二国間の問題、あるいは安全保障上の問題といった多国間の問題を解決していかなくてはならない。これが解決しなければ国交正常化は妥結しない。包括的にこれらの問題を解決していくことが今考えていることだ。北朝鮮が二度とさまざまな問題、拉致の問題、工作船とか麻薬の問題、そういうことを起こさない国になり、人々にさまざまな情報がいく、人々が情報をもって判断することができるそういった国に北朝鮮が変わっていくことを期待している。

〔衆議院安全保障委員会〕(2002年12月5日)

●万景号について

△前原議員(民主党)


 ――(奄美大島で引き揚げられた工作船から回収された携帯電話の通話記録について)暴力団との関係、あるいは朝鮮総連、現か元かわかないが、幹部とのいわゆる通話、そういうものが取り沙汰されているが、事実関係を知りたい。

 深谷長官:携帯電話から日本の国内に電話が発進されていることは掴んでいるが、その詳細については鋭意調査を進めているところである。詳しい中身については答弁を差し控えたい。ただ本件については、国民の関心も高いので捜査に支障がない限りその範囲内で適宜公表していきたい。

△長妻昭議員(民主党)


 ――手続きさえ整えば、一億だろうが、二億だろうが、紙さえ書けば現金を万景号で北朝鮮に運べる。安全保障上、これで良いのか、防衛長官の見解を聞きたい。

 石破長官:法的な面については責任を有する立場にはないので、答えられない。

 ――平時というか全く問題のない国であればそれはいいのだが、やはり連携を取ってもらいたい。防衛庁、財務省などがある統一の意思をもってやはり国、国家として動いてもらいたい。税関関係で一つ質問がある。万景号の積み荷、いろいろダンボ−ルなどがあるが、財務省の方は、荷物はすべて開けて確認していると言っているが、中身を全部確認しているということか?

 藤原審議官:旅客の携帯品も含めて開披検査、エックス線検査を行うなど、厳重な取締りを実施しているところだ。検査率の数字については相当高い比率で厳重に検査を行って いる。

 ――万景号についての川口外相の見解を聞きたい。

 川口外相:政府としての見解を申し上げる立場にはない。

 ――寄港制限を安全保障上の観点から検討はできないのか?

 石破長官:寄港制限は基本的に不可能である。何を持って安全保障上の理由とするのか、日本1か国だけで決められる問題ではない。安全保障上の理由をもって開港、不開港を決するのは相当困難である。◆