2009年2月18日(水)

拉致問題での「ヒラリー発言」をどうみる

 ヒラリー・クリントン国務長官が米大使館で拉致被害者家族の代表らと面会し、拉致問題について聴取したうえで、解決に向けての協力を約束したようだ。07年2月に来日したチェイニー副大統領のときは、面会時間はたったの10分だったが、今回は30分。06年4月にホワイトハウスでブッシュ大統領が面会した時と同じぐらいの時間を割いたわけだ。秒刻みのスケジュールの中、30分も割いた狙いは、オバマ政権も拉致問題を重要視しているので、日本もアフガン問題などでそれ相応の協力をしてもらいたいとのしたたかな計算が働いているようだ。

 クリントン長官は、拉致被害者家族の訴えに「拉致問題は米国としても優先すべきものと理解している。解決のためにはどう圧力をかけていくか、検討したい」と答えていたが、具体的にテロ支援国指定解除の復活を要求されると「よく調べてから対応する」と、お茶を濁してしまった。拉致被害者家族らと面談すれば、このような申し入れがあることは事前に想定していたはずだ。いまさら、検討、調べるまでもないはずだ。結局は、クリントン発言は日本の「前向きに検討する」との同義語に過ぎない。要は現状では、再度のテロ支援国指定は考慮していないということのようだ。

 振り返れば、ブッシュ大統領の時も、横田早紀江さんとの面会を「最も心を動かされた面会である」と述べ、その後も「拉致は忘れない」との言葉を再三繰り返していたが、気が付けば、日本の反対を押し切って、テロ支援国指定を解除してしまった。そのことで、日本は大いに失望させられ、一部には「米国は日本を見捨てた」との声さえ沸きあがったほどだ。米国は自らの国益と安全保障のためなら同盟国でさえ袖にする国であることを改めて思い知らされたはずだ。共和党政権から民主党政権になってもこの点において変わりはない。

 頼りにしていたブッシュ政権が北朝鮮の核計画申告への見返りのためにテロ支援国指定を解除したのは周知の事実だ。ところが、オバマ政権は核放棄の見返りに今度は、国交正常化を提案している。日本にとっては最悪のシナリオだが、「核・ミサイル・拉致を包括的に解決して国交正常化」が基本方針の日本に対して、米国の国交正常化への前提条件には残念ながら拉致問題は含まれていない。米国にとっては核、ミサイル開発を阻止することこそが最優先課題で、拉致問題は他国の問題、二次的な問題として捉えている。

 日本政府は拉致問題での米国の協力を求め、期待しているが、米国ができることは、北朝鮮に日朝協議に応じ、再調査を速やかに開始するよう働きかけることぐらいだろう。拉致問題解決の前提条件である拉致被害者の全員帰国、真相究明、拉致実行犯の引き渡しまで日本と一緒になって北朝鮮に迫ってくれれば御の字だが、オバマ政権が果たしてどこまで本気に協力してくれるやら。