2004年10月13日(木)

興味深いジェンキンスさんの「告白」

 「告白」を読み直してみた。外国人、それも米国人が北朝鮮で体験した「亡命40年」が赤裸々に綴ってあり、改めていろいろな事実を知らされた。「とんでもない国に逃げ込んだものだ」とのジェンキンスさんの後悔が滲み出ていた。しかし、本を読んでも解明できない疑問が何点かあった。

 一つは、なぜ、北朝鮮当局が20歳も年上の米人脱走兵にうら若き二十歳の日本人乙女を、それも拉致してからたった2年そこそこでジェンキンスさんに紹介したのかという謎だ。このことについては本の中では一言も言及されていなかった。

 二つめは、北朝鮮工作機関による曽我ひとみさんの拉致の本当の狙いだ。工作員のための日本人教官としてではなく、最初から米国人のための「パートナー」が必要ならば一人で歩いている女性を狙えば済むものを母親ともども拉致する必要がどこにあったのかという疑問だ。また、ひとみさんよりも前に日本から拉致された疑いのある特定失踪者の中には独身女性も多くいるはずなのになぜひとみさんなのかもわからない。

 それと、当初の拉致の狙いが、実際に「日本人教官」にあったならば、どう考えても19歳の娘よりも、人生、社会経験豊かな46歳の母親のほうが相応しいように思えてならない。もしかすると、北朝鮮にとっては母親のみよしさんがメインで、娘のひとみさんはサブだったのではないだろうか。結論を言うならば、みよしさんは、北朝鮮にやはり拉致されており「入国した事実はない」という北朝鮮の調査発表はデタラメのように思えてならない。

 三つ目、これが最大の疑問ですが、なぜ、北朝鮮が拉致リストに載っていない、日本政府が求めもしなかった曽我ひとみさんを自主的に出してきたのかという謎だ。

 ジェンキンスさんは「北朝鮮最上層部の人たちの間で、ひとみと私に関する情報に行き違いがあったのではないだろうか」「ひとみと私がうっかり夫婦であるという事実をうっかり見逃したに違いない」と記述していたが、これも一理ある。

 北朝鮮当局が「ポカ」を犯したというか、ミスったということなのだろうが、但し、それだけでは到底説明がつかない。邪推かもしれないが、北朝鮮当局はジェンキンスさんの妻であることをあえて承知のうえで出したのではないだろうか。逆に言うと、ジェンキンスさんの妻であるがゆえに出したのではないだろうか。

 その理由は以下3点が考えられる。@生存者は5人しかいない。残りは死亡した」との発表を日本側に信じ込ませるために拉致リストに載っていないひとみさんを自主的に差し出すことでそのことを正当化させようとした。A40年間、匿い、面倒を見てきたジェンキンスさんがよもや裏切ることはないと、信じて疑ってなかった。B拉致被害者の蓮池、地村夫婦が日本に帰国するような場合、子供だけでなく米国人の夫が北朝鮮に残っているひとみさんならば必ず戻ってくるし、そうなれば全員戻らざるを得ないと計算していた。

 北朝鮮当局の思惑はすべて外れたわけだが、このジェンキンスさんの手記が来る日朝交渉再開に、拉致問題の解決にどのような影響を及ぼすのか、注目される。