2008年1月19日(土)

福田総理の施政方針演説

 昨日、福田総理の施政方針演説を聞いた。「私の手で問題を解決したい」としていた拉致問題、北朝鮮問題については「すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現し、不幸な過去を清算し日朝国交正常化を図るべく、引き続き最大限の努力を行なっていく」と述べていた。これを受けて所管の高村外相も「拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して日朝国交正常化を早期に実現できるよう全力で取り組む」との決意を表明していた。

 二人とも揃って日朝国交正常化の早期実現を口にしていたが、確か、これまでの政府の説明では、国交正常化を求め、急いでいるのは北朝鮮であって、日本ではないはず。その証拠に日本は「拉致問題の解決なくして国交正常化はない」を看板にしてきた。即ち、北朝鮮に対して「日本と国交正常化したければ、拉致問題を解決せよ」と迫っていたではないか。

 国民の多くは北朝鮮と国交をしたいとは思っていない。必要性を感じていないのだ。その理由は、実に簡単だ。北朝鮮が嫌いだからだ。このことは、すでに世論調査でも表れていた。

 最新の世論調査がないのが残念だが、3年前の朝日新聞の世論調査(05年4月27日付)では、「北朝鮮は好きか」との質問に驚いたことに「好き」は0%で、1%もなかった。世論操作をする独裁主義、全体主義国家で起こりうる現象が起きたのだ。北朝鮮と「不倶戴天」の関係にある米国ですら、米キャラップ調査がアジア諸国に対する高感度調査(06年2月24日)を行なったところ、北朝鮮に対する高感度もそれでも10%はあった。

 「好き」が1%もないというのは戦時中ならばいざ知らず、今の言論の自由が許される民主主義国家にあっては異常事態と言わざるを得ない。換言するならば、それだけ北朝鮮が大嫌いだと言うことだ。

 従って、政府が北朝鮮との国交の重要性も必要性も感じていない国民に唐突に「国交正常化を早期に実現できるよう全力で取り組む」といくら強調してもナンセンスだと思う。  国交正常化のためにも拉致問題を解決しなければならないのならば、国交による安全保障上の、外交上の、あるいは経済上のメリットを国民に知らしめる必要がある。「国交正常化が日本の国益となる」との説明なくして、国交正常化への国民の理解、支持は得られないだろう。

 もう一つ、気になる発言がある。

 「北朝鮮は一筋縄ではいかないというか、(北朝鮮とは)非常に難しい交渉が控えている。従って、従来から対話と圧力ということでやってきたけれども、やはり対話をしなければいけない。そういう時には、我々としては勿論、断固とした姿勢も示す必要がある。と同時に如何に効果的な対話をするかということで言えば、粘り強い交渉が必要だ。その両方で引き続きやっていくしかない。その時に、勿論、日朝の関係もあるし、国際的な枠組みというか、国際的な協調というものも非常に大事だと思っている。そういう意味ではこれから益々、日米、そしてまた韓国、中国等々、足並みを揃えて北朝鮮と向き合っていく。そして核廃棄が彼らにとっても必要だということをよく分からせる、分かってもらう必要があると思っているし、同時に日朝関係、拉致問題の解決についても同様に努力していきたいと思っている」

 これ、実務責任者である信任の薮中外務次官の就任記者会見での「拉致関連発言」だが、分かりきっていることをああでもない、こうでもないと言っているだけで、福田総理のように「自分の手で解決する」との断固たる決意表明もない。表明できないのは、おそらく内情を、現実を誰よりもよく知っているからではないだろうか

 谷内前次官から「拉致問題については長らく取り組んで来られた方なので、私以上に色々なことに配慮して、問題の解決に向けて進めて頂けるのではないかと大いに期待している」とバトンを渡されていたが、「3年間一生懸命やったけれども、結果が出なかったなということであれば、これはやはり拉致問題だろう。拉致問題で結果が出なかったことは非常に残念に思っている」と弁解した前任者と同じような弁明を退任の際に繰り返さないよう拉致被害者の家族のためにも切にお願いしたい。