2012年5月17日(木)

宋大使の「再調査既に実施」発言、本当!?

 東京新聞に宋日昊日朝国交正常化交渉担当大使が先月訪朝した日本人代表団と面談した際に日本側が求めていた安否不明者の再調査について「再調査を既に実施した」と発言していたとの記事が載っていたからだ。

 再調査の結果を日本側に伝えてないことについては「(日本で)政権交代したから」とのことだが、本当に再調査を終えたのだろうか?

 この話を東京新聞に伝えた訪朝団の一人である清水澄子元参院議員は「面会の時間が十分でなく、再調査の結果を詳しく聞けなかった」と答えていたが、再調査を行ったことが事実ならば、仮に面会の時間が十分あったとしても、宋大使が民間人にその結果を伝えることはないだろう。

 北朝鮮が安否不明者の再調査を約束したのは福田政権下で交わした08年8月12日の合意に基づく。ところが、1か月もしない9月1日、福田総理は辞任を表明。そのため北朝鮮は4日に北京の大使館を通じて「日本の新政権(麻生政権)がその履行にどういう考えなのかを見極めるまで再調査委の立ち上げを差し控える」と連絡していた。従って、福田政権下では再調査をやっていないことは明白だ。

 次の麻生政権の09年3月16日、麻生総理は「本当に再調査すれば、我々としては約束を実行する」と述べ、制裁の緩和を示唆したが、北朝鮮から全く反応がなかったので4月2日、対北朝鮮制裁措置を1年間延長する方針を決めざるを得なかった。

 では、民主党政権、即ち鳩山政権下ではどうか。

 鳩山総理は09年9月24日の国連総会での演説で「拉致問題で北朝鮮が再調査などで誠意を示せば、日本も前向きに対応する」と演説しても、これまた北朝鮮側から何の反応もなかった。

 翌年(10年)の4月になって宋大使が「(朝鮮学校が)無償化されれば、政権が代わって新しくなったと受け止め、こちらとしてもやるべきことをやる」と制裁の一部解除と無償化を条件に再調査の開始を示唆したものの周知のように制裁の緩和も朝鮮高校への無償化は今日まで見送られたままである。

 鳩山政権から管直人政権に移行した同年10月12日、宋日昊大使は共同通信との会見で菅直人首相が所信表明で言及した北朝鮮政策を批判したうえで「われわれは(拉致問題)解決のためあらゆる誠意を尽くした」と述べ、また管政権退陣1か月前の昨年7月には松本剛明外相がARF閣僚会議で、北朝鮮の朴宜春外相に対し再調査の早期実施を要求したところ朴外相は「拉致は解決済みだ」と突っぱねていた。その気がないことがわかる。

 今の野田政権下でも、宋大使は今年4月16日ミサイル発射に前後して訪朝していた複数の日本人に民主党の中井洽衆院予算委員長(元拉致問題相)と過去4度にわたって会談したことを認めたものの再調査については「現在は再調査していない」と答えていた。

 不思議だ。北朝鮮はいつ、再調査をやったのだろうか?