2011年10月18日(火)

野田総理が行くべきはソウルではなく、平壌では?!

 今日、野田佳彦総理が訪韓した。シャトル外交の順番からすれば、本来ならば今度は李明博大統領が訪日するのが筋だが、韓国側が大統領の訪日の日程の調整が付かないという理由で野田総理が韓国に出向くことにしたようだ。何とも寛大である。

 外交慣例に反しての訪韓について野田総理は竹島問題などでギクシャクしている日韓関係を修復し、未来志向の関係を築くためには順番に拘らないと言っているようだが、それにしてもなぜ今、訪韓なのだろう?日韓間に今すぐに解決しなければならない急務、懸案でもあるのだろうか?

 野田総理は今月8日に拉致被害者家族と首相官邸で面会し、家族側から自身の訪朝の可能性を問われた際「私が行くことで拉致を含めた諸懸案が解決するならいつでも行く」と述べていた。

 振り返ってみると、野田総理の先輩の鳩山由紀夫元総理も確か、同じようなことを言っていた。在任中の2009年12月11日、拉致被害者家族会らとの会合に出席後、記者団から自身の訪朝の可能性を問われ「いつか、私自身が行く必要が出てきたときには当然体を張って行く」と言っていた。但し、「まだその状況にはなっていない」とも述べていた。結局は行くことはなかった。

 あれからおよそ2年、野田総理も鳩山元総理同様に訪朝も辞さない姿勢を示すことで、拉致問題に取り組む姿勢を見せたかったのだろう。しかし、現実には、鳩山元総理同様に拉致問題解決の担保がないことから訪朝は困難とみているのだろう。だからこそ決意表明はしたものの訪朝の時期を言及できなかったのだろう。これまた当然のことかもしれない。

 彬山晉輔外務省アジア太平洋州局長は先月、訪日した韓国記者団との会見で拉致問題をめぐる日朝協議について「残念ながら現時点では北朝鮮とは対話できる状況にはない」と語っていた。

 その通りである。しかし、日朝はずっと対話ができない状況が続き、拉致を含めた諸懸案を解決できる状況にはなってないからこそ、トップ外交で事態を打開することが緊要ではないだろうか。「私が行くことで拉致問題が解決するなら訪朝する」という言葉は、裏を返せば「今、私が行っても解決はできない。解決できないから行けない」と言う風に聞こえなくもない。

 しかし、拉致問題が解決できる状況にあるならば、何も総理が平壌まで出向く必要はない。誰が行っても解決できるなら、日本国総理が国交のない北朝鮮に3度も行くまでもない。どうにもならないからこそ総理の出番ではないのだろうか。事態を打開することもトップ外交の使命ではないのだろうか。

 日韓関係の最大の懸案が竹島問題であることは誰もが認めるところである。信任の野田総理が今回、訪韓したからと言って、簡単に解決できる問題ではない。それでも訪韓し、首脳間の信頼関係を構築することが日韓の懸案を解決することにプラスになると判断し、訪韓を決断したのだろう。ならば、訪朝についても同じことが言えるのではないだろうか。

 拉致問題は2度訪朝した小泉総理以後、歴代総理が「一刻も早い解決を図りたい」(安部総理)「私の手で解決したい」(福田総理)「時間との勝負。答えを急いで出したい」(麻生総理)「積極的に取り組むところをお見せしたい」(鳩山総理)「国の責任において、すべての拉致被害の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くす」(管総理)と就任表明しながら、結局のところ、何の進展も見られぬまま、いたずらに時間だけが過ぎ去った。

 このままでは、野田総理も前任者らと同様に間違いなく、決意表明、掛け声だけで終わるだろう。拉致問題の解決にはリーダーの先見性と発想の転換、そして政治決断が必要だ。