2011年7月26日(火)

日朝秘密接触は中井氏のスタンドプレー!?

 日朝交渉の責任者である外務省のトップが「いま、日朝対話の調整を行っていることではない」と言っていたまさにその日に中国・長春で民主党の中井洽元拉致問題担当相が北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使との間で拉致問題を進展させるための交渉を秘密理裏に行っていたからこれまた驚きだ。

 この件について外務省の伴野豊副大臣は昨日(25日)の記者会見で「外務省としては事前に承知していなかったし、現時点でも一切関与していない」と述べていた。これが事実なら、民主党政権は拉致問題、北朝鮮問題の対応でもバラバラだということになる。

 仮に事前に知っていたとすれば、政府と党との間で役割分担していたということになるが、岡田克也幹事長が「承知していない」と言っていたところをみると、党が動いたわけでもない。

 官邸はどうかというと、枝野幸男官房長官も記者会見で「政府への連絡は特にない。事実関係自体、承知していない」と説明していた。ということは、中井氏のスタンドプレーか、あるいは管直人総理の了解の上での行動かのどちらかということになる。

 ないがしろにされた岡田幹事長は「本来、外交は政府が一元化して行うべきだ。中井氏の件について松本剛明外相なり菅直人首相が承知していないとすれば問題がある。二元化すれば、相手に乗じられ、スキを与えることになる」と言っていたが、外務省ルートで膠着状態を打破できなければ、二元外交であれ、三元外交であれ、議員外交であれ、民間外交であれ、事態の打開のため動くのが本来筋である。

 北朝鮮との交渉を棚上げにしていたオバマ政権下でもこの期間、核問題で北朝鮮を説得するためリチャードソン・ニューメキシコ州知事やクリントン元大統領、カーター元大統領をはじめ学者ら多くの米国人が訪朝し、北朝鮮側要人と直談判している。それでも二元外交という言葉は聞かれない。

 韓国も同様だ。北朝鮮を動かすため南北秘密接触を含めありとあらゆるルートを使って、対北朝鮮外交を展開してきた。そのような積み重ねがあったからこそ、今回、南北接触も米朝接触も日の目を見ることになったのではないだろうか。

 むしろ、逆に驚いたのは宋日昊大使が民主党内にあって北朝鮮問題では最も強硬な立場を取る中井前大臣と会ったことだ。

 中井氏は2010年9月までの1年間国家公安委員長兼拉致問題担当相を務めていたがこの間、北朝鮮が最も嫌う黄長Y元労働党書記や大韓航空機爆破事件の金賢姫元工作員を日本に招請し、また北朝鮮女子サッカーチームの入国問題や朝鮮学校への授業料無償化問題で異議を唱えてきた人物として知らている。

 北朝鮮にとってはまさに「北朝鮮敵視政策」の張本人でもある中井氏を秘密接触のパートナーとして受け入れたということは、管総理の特使だからなのか、それとも拉致問題の解決、国交正常化には中井氏ら強硬派を説得せずして、困難との現実的な判断が作用したかのどちらかであろう。後者だとすれば、これは、かつて拉致議連会長だった中山輝樹代議士を受け入れたことと同じ手法だ。

 「タカ派の論客」と知られていた中山元衆議員は当初は「拉致問題が解決するまでは北朝鮮に対して食糧支援を行わない」と発言するなど強硬的な姿勢を貫いていたが、北朝鮮側と接触し、1997年11月に訪朝した後は「まず北朝鮮との国交正常化を行った後に拉致問題の解決を行うべき」と一転して、北朝鮮に融和的となった。

 承知する限り、中井氏が「第二の中山」となることはないが、仮に中井氏の背後に噂されているように管総理がいるなら、その可能性もまったくゼロではない。