2011年12月26日(月)

拉致、またもや中国頼み?

 困った時の「中国頼み」ではないが、訪中した野田総理は温家宝総理に対して拉致問題での理解と協力を要請していた。日本の総理が中国の首脳に拉致問題で協力を要請したのは何も今回が初めてではない。小泉総理以降総理が6人変わったが、その都度行われた中国との首脳会談では何度も協力を要請してきた。その結果が、今の有様だ。

 温総理に至っては、2007年4月に来日した際「必要な協力を約束した」と当時の日本の新聞には報じられている。その中身について一か月後の読売新聞(5月28日付)は「中国当局が拉致問題の解決に向けて安否不明の日本人拉致被害者や特定失踪者に関する情報を独自に収集することで日本への協力を検討している」との観測記事が載っていた。この記事を読んだ読者の中には「中国もいよいよ本腰を入れて日本に協力する気になったか」と期待する向きもあった。しかし、綾小路きみまろの決め台詞ではないが、「あれから4年」どうなったのだろうか?

 拉致問題で被害者家族や国民から期待を一身に集めていた中山恭子さんもそうだ。

 この年の5月に総理補佐官として訪中し、当時6か国協議の中国首席代表であった武大衛外務次官と会談した後、「中国の皆さんが拉致問題をしっかり受け止め、日本の現状に理解が深まったと感じている。今後、どんな形で(中国が日本に)協力できるか、話ができる環境ができた」と報告していた。

 今回野田総理が中国に理解と協力を求めたのが事実なら、中山補佐官は当時中国側に一杯食わされたか、虚偽の報告をしたのかどちらかということになる。

 思えばこの年の3月、訪中した自民党の丹羽総務会長に対して載秉国外務次官は日本の譲歩による政治決着を求め、また王家瑞対外連絡部長も「交渉ごとには譲り合いも必要だ。譲るところは譲るべきだ。妥協点を見出さないと解決は難しい。相互の理解と信頼が大事であり、ひたすら圧力をかけるだけでは効果的な前進は得られない」と、「北朝鮮に(解決に向けて)働きかけて欲しい」と要請していた丹羽総務会長を逆に説得していた。

 翌年(2008年)も自民党の二階俊博総務会長が7月に訪中し、戴秉国国務委員に会い、また8月には山崎拓・前副総裁が訪中し、王家瑞・対外連絡部長らに会い、いずれも拉致問題解決への支援を要請したが、王部長からは「日本の国民が拉致問題に強い関心を抱いていることは我々もよく知っているが、政府の役割は世論に左右されず、6か国協議の目標全体に理解を求め、国民を導くことが必要ではないか」とも柔軟な対応を促されていた。

 中国は日本に対して一貫して柔軟な姿勢と北朝鮮との直接交渉を求めてきた。

 中国の崔天凱駐日大使は2009年6月3日、民主党の鳩山由紀夫代表と党本部で会談し、「対話を通じて交渉していかなくてはならない。強硬に出ればいいという問題ではない」と述べ、制裁強化に否定的な考えを伝え、また王家瑞・中国共産党対外連絡部長も同年9月に「最後は日朝両国次第だ」と語り、「日朝関係は信頼が重要で、信頼の上に問題解決を図るべきだ」と強調していた。

 中国からすれば何度も「もう少し柔軟に対応てみては」と説得していたのに日本は全く聞く耳を持たず、それでいて「助けてくれ」と要請しているから困ったものだとおそらく温総理も渋い顔をしているのではないだろうか。

 自民党政権も民主党政権も圧力と制裁こそが「毅然たる外交」と錯覚し、北朝鮮に対しては強硬路線一辺倒でやってきたが、その結果が、手の内ようのない今の膠着状態である。だから懲りもせず今回もまた、中国にお願いに上がったのだろう。

 自らの訪朝で拉致問題を進展させた小泉元総理は任期最後の年の2006年3月6日、参議院予算委員会で「日本国民は北朝鮮には誠意がないと怒るのはわかるが、制裁すれば、懲らしめれば、日本の思うとおりにいくかというと、そういう問題ではない。北朝鮮とは対話なしには様々な問題は解決できない。難しい相手だが、交渉しなければならないのが北朝鮮で、金正日総書記だ。私が訪朝した2002年時とは随分違う。韓国や中国が経済的に支援しているなかにあって日本だけが経済制裁して効果があるとは思えない」と言っていた、残念ながらまさに小泉総理の予言とおりとなった。