2010年1月15日(金)

米韓観光客誘致の北朝鮮の狙い

 北朝鮮が米国人の北朝鮮観光を解禁した。また、韓国政府に対しても金剛山と開城観光再開のための交渉を呼びかけた。

 前者について言うなら、北朝鮮は情報流入や「スパイ行為」を警戒し、米国からの観光客をこれまで制限してきた。そのため1987年に外部に門戸を開放したものの、米国人観光客に限っては年間100人、月平均10人程度に留まっていた。また、その多くは、北朝鮮に親族のいる離散家族の在米韓国人であった。昨年はそれでも280人が訪れていたが、全面許可となれば、「年間数千名に上る」(高麗旅行会社のニコラス・ボナー代表)と見込まれている。

 この時期に米国人観光客に門戸を開放したのは、今年の目標に掲げた米国との関係改善への呼び水との見方もある。が、やはり外貨獲得のための誘致が主な狙いだろう。

 年300人と数は多くないが、北朝鮮にとっては「ドル箱」だったリッチな日本人観光客が2006年の日本独自の制裁措置によりほぼ途絶えたことで、その穴埋めとして、今後米国人観光客に狙いを定めているとみても不思議ではない。

 金剛山観光再開に向けて韓国政府に交渉を呼びかけたのも、同じ線上にあって、明らかに外貨獲得に照準を合わせている。

 金剛山観光は2008年7月に発生した北朝鮮警備兵による韓国人女性観光客射殺事件で、また、開城観光は2008年12月1日の北朝鮮側の一方的な中止通告により、中断していた。

 中断するまでの過去10年間で韓国人観光客は延べ195万人に達していた。08年は上半期だけで約20万人が訪れていた。この年の年間目標は55万人だった。

 北朝鮮は一昨年、金剛山観光料として2、038万ドルの外貨収入があった。これは、2年前までマカオで差し押さえられていたデルタアジアバンクの預金額にほぼ匹敵する額だ。08年も上半期分だけで1,074万ドルを受け取っていた。大きな収入源を失ったわけだから、痛手であっただろう。

 韓国政府は金剛山観光再開に向けて、射殺事件の合同調査による真相究明と再発防止、観光客の身辺安全に関する制度的措置の「3条件」を出していたが、北朝鮮は死亡事件について「遺憾の意」を示しながらも、「事故の責任は韓国にある。韓国はふさわしい責任を取るべきだ」として韓国側を批判していた。また、韓国政府が金剛山観光の暫定中断を決めた時は「北朝鮮に対する挑戦だ」と非難し、逆に「韓国が今回の事件をきちんと謝罪し、再発防止策を整えるまでは韓国側観光客を受け入れない」と突っぱねている。