2013年4月6日(土)

ムスダン・ミサイルを発射するのか、迎撃するのか

 北朝鮮が日本海に面した元山(ウォンサン)周辺に中距離弾道ミサイル「ムスダン」を2基、配備したようだ。

 「ムスダン」は旧ソ連の潜水艦発射型弾道ミサイル「SSN−6」を北朝鮮が90年代に手に入れ、地対地ミサイルとして独自開発したミサイルで、これまでに50基生産されていると伝えられている。

 「ムスダン」は2010年10月の労働党創建65周年の軍事パレードでお披露目されたが、ノドンやテポドンとは異なり、過去に一度も発射実験がされてない。射程距離は推定4000kmで、核弾頭搭載可能な中距離ミサイルといわれているが、事実ならば、グアムが射程圏内に入る。

 発射テストが行われてないままの生産、実戦配備は常識では考えられない。ならば、米国と全面対決している今がそのテストチャンスと考えているかもしれない。

 金正恩政権は現在実施されている米韓合同軍事演習「フォー・イーグル」にオバマ政権が核攻撃可能なB−52戦略爆撃機やB−2ステレス戦略爆撃機、さらには巡航ミサイル・トマホークを搭載したロサンゼルス級原子力潜水艦「シャイアン」を参加させていることに「我々への核攻撃を企てている」と強く反発している。

 おそらく、「目には目を」とばかり、北朝鮮も対抗手段として核爆弾搭載可能な「ムスダン」を発射させることで北朝鮮にも米国を核攻撃できる能力があることを示したいのだろう。まして、北朝鮮は最高司令部や外務省声明で「米国の敵対政策、核脅威に対抗するため第二、第三の軍事的対応を取る」と再三予告してきた。本気度を示す上でも発射の可能性は大だ。

 問題は発射の時期だ。

 過去3度の「テポドン」発射時は、「衛星の打ち上げ」と称していたこともあって発射期間の予告があった。2009年4月の時は、発射予告から41日目、失敗に終わった2012年4月の時は、発表から26日目に発射されている。そして昨年12月の発射は、12月1日に「10日〜22日の間」との予告があって、12日に発射されている。

 本来ならば、ミサイルであっても、飛行区域の航空機や船舶の航路安全のため国際民間航空機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)に期間と飛行ルートを事前通告しなければならない。しかし、6日現在、北朝鮮から航路禁止区域の事前通告はない。

 また、「テポドン」のように固定された発射台から発射されるならば、偵察衛星で監視ができ、ある程度、予測できるが、「ムスダン」は車両に備えられた発射台から発射される、移動式発射なのでいつどこに飛んでくるのか、予測不可能だ。

 それでも、あえてその時期を推測するなら、早ければ、金正恩第一書記就任一周年にあたる4月11日、もしくは同じく国防第一委員長就任一周年にあたる4月13日までに発射されるだろう。どんなに遅くとも人民軍創建日の4月25日までには発射があるだろう。

 発射実験だとしても、実際の核爆弾でなく、模擬爆弾を搭載したとしても、また米国の領海、領土に着弾しなくても「ムスダン」の発射は米国への露骨な挑戦であることは間違いない。まして直前に人民軍参謀部の名でホワイトハウスとペンタゴンに「(米国は)小型・軽量化された多様な核攻撃手段によって粉砕されるだろう」との通告があっただけにオバマ政権としては放置できないだろう。

 では、金正恩政権から「挑戦状」を叩きつけられたオバマ政権はどう対応するのだろうか?

 クリントンからブッシュ、オバマ政権にいたるまで米国は北朝鮮に対して「先制攻撃の選択肢は排除しない」と言明してきた。

 現にブッシュ大統領は2002年に訪米した江沢民主席に対して「外交的に解決できなければ、軍事手攻撃を検討せざるを得ない」と米国の「計画」を伝えていた。また、2009年の時はゲーツ国防長官の「迎撃も辞さない」との発言もあり、米国務省がロシアにその可能性を事前通告していた。

 昨年も、ロックリア米太平洋司令官が「北朝鮮が核実験を企てれば、基地に対して極地攻撃も辞さない」(4月17日)と北朝鮮に警告を発したばかりだ。一番最近では、先月11日、ドニロン大統領補佐官が「米国を攻撃目標にできるような核ミサイル開発を傍観しない」と発言していた。

 米国は日韓と連携して朝鮮半島の東西南の3か所と「ムスダン」が飛来してくる日本海と太平洋沖に昨年12月のテポドン(衛星)発射の時と同じようにイージス艦を配備している。高性能レーダーと迎撃ミサイルを装備したイージス艦「フィッツジェラルド」、横須賀に基地のあるイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」、米西海岸を拠点とするミサイル駆逐艦「ディケイター」などがスタンバイにある。

 「ムスダン」が発射されれば、高度30〜40kmの上昇段階では航空機に搭載したレーザー(ABL)で、大気圏を突入する高度100kmまでの中間段階ではイージス艦のSM―3で、高度100kmから放物線を描き地上に落下してくる最終段階は、高度防御体系(THAAD)とイージス艦のSM―2、地上のパトリオット(PAC3)で迎撃する構えだ。

 THAADは高度150kmから秒速2.5kmで飛んでくるミサイルの迎撃が可能で、米国防省ミサイル防御庁は今年1月27日、カリフォルニアの中部海岸で「迎撃実験に成功した」と発表している。ならば、迎撃は可能だ。

 しかし、迎撃すれば、北朝鮮は反撃すると警告している。

 北朝鮮は2009年のテポドン発射の後に訪朝した米高官に対して「迎撃されれば、日米のイージス艦を撃沈する態勢にあった」と伝えていた。

 また、金正恩氏の誕生日にあたる昨年1月8日に放映された金正恩活動記録映画をみると、金正恩氏は2009年4月5日のミサイル(衛星)発射を父親の金正日総書記と共に平壌の管制総合指揮所で参観していたことが判明している。問題は映画のナレーションで、なんと「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との金正恩の言葉が紹介されていた。

 従って、仮に命中して、迎撃すれば、北朝鮮の反撃次第では、誰もが望まない戦争を引き起こすことになりかねない。その一方で、仮に迎撃に失敗すれば、莫大な費用を投じ、築いてきた米国のミサイル防御(MD)が総崩れとなり、赤っ恥を掻く羽目になる。さりとて、なにもできないまま北朝鮮のミサイル発射を許せば、米国の「警告」を金正恩政権がハッタリと「誤算」し、さらなる強硬手段に打って出るかもしれないとの危惧がある

 金正恩政権にとっても、「ムスダン」を発射すれば、一層の外交的孤立と、国連安保理のさらなる制裁に直面し、党中央委員会総会と最高人民会議でぶち上げた「経済建設」の夢も吹っ飛ぶ。米国の対応次第では、「ムスダン」発射が引き金となり、勝ち目のない軍事衝突、全面戦争という事態を招きかねない。金正恩氏もまた、よほどの覚悟がなければ、そう簡単に発射ボタンは押せないだろう。

 これぞ、まさにチキンゲームだ。それも、最初の山場が訪れた。