2012年10月8日(月)

北朝鮮兵士亡命事件

 週末に起きた北朝鮮兵士の亡命事件は、金正恩体制のイメージ失墜に繋がったようだ。

 事件の全容は不明だが、これまで明らかにされた情報を簡単に整理すると、

@事件は軍事境界線を警備する北朝鮮の歩哨所で白昼に起きた。
A6発の銃声が聞こえた。
B銃声から4分後に北朝鮮の兵士一人が、北朝鮮の歩哨所から500メートル離れた韓国側の歩哨所に向かって逃げてきた。
C韓国側の歩哨兵は、この兵士が小銃を捨て、「帰順(亡命)」の意思を表明したので、12時10分に身柄を確保した。
Dこの兵士は「警戒勤務中に小隊長と分隊長を射殺し、帰順した」と語った。
E事件直後、北朝鮮の警備所から2人の遺体が運ばれているのを韓国側の歩哨所からの望遠鏡で確認された。

 日本でも公開された韓国映画「JSA(非武装地帯)」をみれば、わかることだが、北朝鮮の歩哨所には通常3人の兵士が勤務している。二人の遺体が運ばれたということは、このうち一人が二人を射殺したことになる。

 殺害された二人はいずれも上司、上官である。一般の社会とは異なり、上下関係が厳格な、とりわけ上官には絶対服従の部隊で起きただけにその衝撃は計り知れないものがある。ましてや、正恩氏はこの夏に38度線の最前線を視察していたからなおさらである。

 亡命を企図し、最初から殺害を計画していたのか、それとも何らかのトラブル沙汰となってカットなって引き金を引いたのかは不明だ。

 また、一部には、韓国への亡命を企てたのは一人でなく、複数(3人ない4人)でそのうち二人は銃声を聞きつけ駆けつけた北朝鮮の警備兵らによって射殺されたとの説もある。これが事実なら、偶発的な事件ではなく、集団による亡命事件ということにもなる。

 北朝鮮から韓国への軍人による亡命事件は過去10年間で4件(02年、08年、10年,12年)発生し、5人が亡命を果たしている。しかし、今回のように上官を殺害し、亡命したケースは極めて稀である。

 前線の歩哨所に配属される北朝鮮の兵士らは人一倍忠誠心が強く、思想武装されている。そうした「模範生」が親、兄弟を犠牲にして、敵陣に亡命を企てるというのはよほどのことである。

 食糧難や将来への絶望感による「離脱」か、それとも、韓国への憧れが絶頂に達したからなのか。

 仮にこれが、兵士らに常日頃「警戒心を高めよ」と命令しておきながら、綺麗な夫人と腕を組んで歩いたり、遊園地で絶叫マシーンに乗り、はしゃいでいる若き最高司令官への不満や反発ならば、事は重大だ。

 北朝鮮は事件については沈黙を守ったままだが、後始末をどう付けるのだろうか?