2011年8月18日(木)

ユニークなカナダの対北政策

 カナダは国土面積ではロシアに次ぐ世界第2位の大国であり、またG8のメンバーではありながら、米国や主要西欧諸国と違って、あまり目立つこともなく、国際紛争に口挟むこともなく、なんとなく米国の陰に隠れて、のし上がってきたという印象がある。それでいながら外交政策では必ずしも米国一辺倒ではない。米国と陸を接していながら、英連邦の一員、加盟国であるとの国情によるせいかもしれない。

 そのカナダで北朝鮮から6人の大学教授がやって来て、市場経済を勉強している。6人とも金日成総合大学のれっきとした教授で、今年7月から名門大学で知られるブリティッシュコロンビア大学で寮で生活しながら学んでいるというから、カナダもよく受け入れたものだ。

 こうした報道に接すれば、誰もがカナダは北朝鮮に開かれた国、あるいは両国の関係は進展していると思いがちだが、どっこい現実は、日米を除くG8の中では何と、カナダが北朝鮮に対して最も厳しい対応を取っているからこれまた驚いた。

 今月2日から開催された軍縮交渉を行うジュネーブ軍縮会議で北朝鮮が持ち回りの議長役を務めることになったことに対して「北朝鮮は議長にふさわしくない」と会議を唯一ボイコットした国が他ならぬカナダである。

 それだけではない。カナダ政府は11日には独自の特別経済措置法に基づき、北朝鮮に対して追加的経済制裁を断行したばかりだ。これにより北朝鮮との全ての貿易活動及び対北新規投資が全面禁止となった。併せて北朝鮮の船舶の寄港、航空機の乗り入れの全面禁止の措置も取られた。

 一昨日、ジョン・ベアード外相は追加制裁を取った理由について声明を発表し、北朝鮮が核開発の中止、廃棄を求める国際社会の要望を無視し続けていることを挙げていた。

 それでいながら、ベアード外相は、今回の制裁措置が北朝鮮の国民にはいかなる害も与えないことも強調し、「人道支援と北朝鮮の改革・開放のための支援活動は制裁措置とは関係なく、今後も続ける」と強調していた。

 全面的な経済制裁という点では日本が取り続けている対北政策と全く同じだが、人道支援や交流という点では、日本とは異なった対応を見せている。

 外相は「カナダと北朝鮮との全ての輸出入だけでなく、金融取引を禁止することによって北朝鮮政権を国際社会で一層孤立させることになる」と自信満々のようだが、現実にはカナダと北朝鮮との貿易実績は日本が制裁するまでは4億7千万ドルもあった日朝貿易とは段違いで米朝貿易同様にほぼ無いのに等しい。

 また、新規投資の全面禁止を宣言しているが、調べてみると、カナダは毎年春と秋に外国企業向けに開かれている平壌国際商品展覧会にこれまで一度も参加、出品したことがない。

 かつて一度、北朝鮮の原油開発に食指を伸ばした企業があったが、今では、在カナダ韓国系の民間業者が細々と取引している程度で、北朝鮮市場に進出している企業はほとんどない。

 EUならば、北朝鮮とは年間2億ドル近い貿易量があるので、経済制裁を科せば、北朝鮮経済に大きな打撃を与え、それこそ外交的に孤立させることができるが、カナダの経済制裁措置は、国際社会に一石を投じることで、北朝鮮に心理的なインパクトを与えることができるが、実質的な経済的制裁効果は甚だ疑問と言わざるを得ない。