2010年1月13日(水)

北朝鮮女子サッカーの不参加

 北朝鮮女子サッカーチームが2月5日から日本で開かれる東アジア女子サッカー選手権大会への出場を取り止めた。7日の韓国との南北戦、11日の日本との試合はいずれも休日にあたり、それも国立競技場であることから観戦を楽しみにしていたサポーターも多かったはずだ。

 北朝鮮チームの入国をめぐっては、確かに拉致問題担当相の中井洽国家公安委員長が「反対」と異を唱え、担当の千葉景子法相も「(北朝鮮への)制裁措置がとられているので、基本的には入国は認められない」と発言していた。それでも、ホスト役の日本サッカー協会の努力の結果、日本政府は最終的に受け入れの決定を行なったばかりだ。

 日本政府が謝罪しないことを不参加の理由の一つに挙げているが、不許可を通告したならばいざ知らず、入国を許可したわけだから謝罪する理由はない。考えすぎかもしれないが、北朝鮮は最初からその気がないから不参加の口実として無理難題を突きつけたとみられる。

 右往左往したものの今回の日本政府の対応について言うならば、昨年のW杯予選で韓国の入国を政治的な理由で最後まで認めなかった北朝鮮政府よりはましと言える。この種の問題で北朝鮮にとやかく言う資格はない。

 もう一つの理由である「選手の安全が保たれない」との不安はわからないでもない。

 北朝鮮は朝鮮総連を通じて「今の状況では選手の安全が保たれない」ことを不参加の理由に上げていた。確かに、北朝鮮選手団が来れば、拉致問題絡みで大騒ぎとなるだろう。

 日本と試合のある11日は建国記念日にあたり、右翼の街宣車が競技場周辺に押し寄せれば、選手らにとっては試合どころではないだろう。但し、安全上の問題について言うならば、日本の警備状況は立証済みなはず。

 拉致問題が最も盛り上がっていた2004年に日本と北朝鮮のワールドカップ予選が日本で行なわれたが、日本の厳重な警備体制の下、試合が無事行われたことは記憶に新しい。

 不参加の理由について日本サッカー協会は「歓迎されないと思ったのだろう」(小倉会長)と説明していたが、簡単に言えばそういうことだろう。だとすれば、やはり最初から来る気がなかったのかもしれない。

 日本政府が5日に入国許可を決定したのに、その二日後の7日には早々と「不参加」を通告してきたことからもうかがえる。まして、北朝鮮がビザを申請していたわけでもない。まさにさあ、これからというときに肩透かしを食らわせた格好となった。

 4か国対抗の大会で優勝すれば、20万ドル、2位でも10万ドルの賞金を手にすることができるが、逆に不参加となれば、北朝鮮には8千ドルから最高で1万ドルの罰金が科せられる。金銭的損得からすれば、出場したほうがはるかに良いが、金勘定よりも、「反北」に利用されかねないとの政治的デメリットを重視したのかもしれない。

 北朝鮮選手団の入国問題が騒がれるまで今大会はほとんど注目されることはなかった。日本で東アジア選手権大会の試合があることすら知られてなかった。仮に北朝鮮が出場すれば、マスコミの関心を呼び、観客動員にもプラスになったはずだ。日本サッカー協会としては大会の最大の目玉を失ったことになる。

 入国反対の声を上げていた拉致被害者救出支援団体の「救う会」は「してやったり」かもしれないが、そうだとすれば、これは、北朝鮮による「オンゴール」の結果であり、逆に北朝鮮チームの不参加で、国内の北朝鮮への関心、即ち拉致問題への関心がシャボン玉のように一瞬に消えてしまったことは、むしろ「失点」につながるだろう。