2010年5月21日(金)

韓国は報復できるか?

 「北朝鮮の犯行」と断定した哨戒艦沈没事件の民軍合同の調査結果を受け、李明博大統領は近々、国民向け談話を発表する。

 李大統領は、これまでに「軍事統帥権者として断固たる対応、措置を取る」と言明してきた。また、金泰栄(キム・テヨン)国防長官も北朝鮮の介入が確実となった場合の対応について「軍事・非軍事的措置を全部考慮している」と語っていた。さらに、金ソンチャン海軍参謀総長は4月29日の海軍葬で「3月26日にペクリョン島で起きたことを絶対に許さないし、許してはならない。苦痛を与えた勢力を探しだして、大きな代価を支払さなければならない」と述べ、「大きな代価を支払わさなければならない」との部分では「必ず」「最後まで」を2度も強調していた。

 こうした一連の発言から、韓国政府が政治、軍事、外交、経済面で報復、懲罰、制裁を軸とした強硬な報復策を打ち出すことが予想されるが、当然、北朝鮮の反発は必至で、これにより南北関係は80年代の冷戦時代にタイムスリップすることになる。

 軍事的クライシスと政治、外交、経済的リスクを伴うかもしれない断固たる措置が取れるのか、検証してみる。

 ●軍事報復は限界?

 韓国内には国連憲章で自衛権の発動が認められているとの理由から、武力使用を検討する向きもある。退役軍人会や保守層では北朝鮮の潜水艦基地への攻撃などの軍事的手段を求める動きもあるが、報復は報復を呼び、大規模の衝突のリスクがある。へたをすれば、全面戦争を誘発しかねない。全面戦争を覚悟しなければ、武力による報復は容易にはできない。まして韓国国民の誰もが、事態が局地戦、全面戦にエスカレートすることを望んでない。

 仮に全面戦争に発展しなくても、局地的な衝突が起きれば、韓国の経済に悪影響を及ぼす。外資が逃げ、株が下がり、韓国経済は大きな打撃を受ける。せっかく好転しつつある経済が一気に暗転する。経済的損失は、北朝鮮のそれよりもむしろ韓国のほうが大きいかもしれない。「実用主義」を標榜してきた李大統領に相当な覚悟がなければ、軍事報復は決断はできない。

 武力による報復の応酬で軍事的緊張が高まれば、韓国が誘致したG20(主要20か国首脳会議)の秋の開催も危うくなる。そうなれば、韓国は国際的威信を高める絶好の機会をみすみず逃してしまう。

 同時に軍事的緊張が高まれば高まるほど北朝鮮が主張する平和協定の重要性がクローズアップされかねない。

 今年は朝鮮戦争勃発60周年の節目の年にあたる。北朝鮮は朝鮮戦争勃発日の6月25日と、休戦協定日の7月27日に向けて、米国や国際社会に平和協定の重要性をアピールすることだろう。北朝鮮は今年1月、停戦協定を平和協定に替えるための会談を米国など関係国に提案したばかりだ。軍事的緊張の増大は北朝鮮の主張を正当化させるだけで、結果として、北朝鮮の思う壺となる。

 ●軍事的圧力は可能?

 韓国政府は直接的な軍事的対応が困難な場合、米空母や核潜水艦、イージス艦を動員し、北朝鮮の東西沿岸で大規模の武力示威を行うことを検討している。   1976年8月の米将校2名が殺害された板門店ポプラ事件の時、F−111戦闘機20機が朝鮮半島を急派し、米空母が東海沖に展開するなど軍事的プレッシャーを加えた結果、北朝鮮が人民軍総司令官の名義で国連軍司令官に「謝罪メッセージ」を伝達したことを教訓としている。

 また、1993年に中断した北朝鮮が最も嫌がっていたチームスピリット(米韓合同軍事演習)の復活も検討されている。武力示威を通じて北朝鮮に圧力を加え、懲らしめ、反省を促すというやり方である。

 さらに、北朝鮮艦船がNLLを越えて入ってきた場合、これまでは2度の警告放送に続いて2度の警告射撃を行った後、それでも退却しない場合に限って撃破射撃(船体射撃)を行っていたが、今後は、警告放送と警告射撃を1回にして、直ちに撃破射撃に移ることも検討している。

 この他に南北首脳会談が行われた2000年6月15日を機に中断している軍事境界線での拡声器の使用やラジオ、TV放送を使った対北心理戦(総合体制批判と誹謗放送)の再開も検討している。

 特に軍事境界線に設置されている拡声器は、出力を最大に利用した場合、夜間には24km、昼間は約10kmの距離まで届く。また撤去された電光板を通じて韓国のTVドラマなど流し、軍人らを動揺させ、人民軍兵士の脱北を誘発するなど相当な心理効果がある。

 ●国連安保理討議は困難?

 韓国は国連安保理に提訴し、北朝鮮に対する糾弾と制裁を引き出したいと考えているが、中国が同調しない限り、国連での制裁論議や非難決議はできない。 温家宝総理の訪朝と金総書記の訪中というクロス訪問により二度の核実験をめぐって亀裂が生じていた北朝鮮との関係を完全修復した中国が再び北朝鮮を見放すような行動に出るとは考えにくい。

 国連での上程が困難な一つの理由は、大量破壊兵器の拡散につながりかねないテポドンミサイル発射や核実験などグローバルな問題と違って、哨戒艦沈没事件は南北間の、地域の問題に限定され、国際社会の関心がそれほど高くないことだ。

 それともう一つは、国連の限界は、南北双方が共に領海と主張している海域で、それも紛争地域での武力衝突などのトラブルで一方を支持することはできないことだ。1999年の第一次海戦、2002年の第二次海戦、そして昨年11月に起きた第三次海戦も、北朝鮮のNLL(北方限界線)侵犯によって引き起こされたものの国連は北朝鮮の侵犯を批判することもなく、中立的な立場を保った。

 これは朝鮮半島の南北に限ったことだけでなく、例えば、日本と台湾、中国が領有権を主張する尖閣諸島や、日韓が鋭く対立する竹島(独島)海域周辺で同じような事件が発生したとしても、国連が一方の側に立つことはない。

 フォークランド紛争で国連がイギリスとアルゼンチンのどちらの肩も持たなかったように、またイスラエルがシリアの領空を侵犯し、核施設の疑いのある工場を空爆しても、イスラエルを非難できなかったように国連が北朝鮮の行為に懲罰を加えることはできない。1987年に発生した大韓航空機爆破事件でも国連は無力だった。

 まして、韓国の民軍合同調査団が米英やスウェーデンなど外国から専門家を加えて客観的に調査を行ったとしても、国連が派遣した国連調査団の調査結果でもないということもマイナス点である。

 仮に米国が主導して国連の制裁を導き出したとしても、すでに2度の核実験で、国連安保理決議1718号と1874号という強力な制裁を科しているので、イラクに対して行ったような全面禁輸のような措置を取らない限り、仮に新たな制裁を加えたとしてもその効果はあまり期待できない。

 また、朝鮮半島での軍事緊張が高まれば、北朝鮮が求める平和協定の重要性がクローズアップされるという皮肉な結果を生みかねない。哨戒艦問題の「国連化」はへたをすると、韓国が固守する海の軍事境界線であるNLL(北方限界線)を国際社会に紛争地域として争点化される恐れも出てくる。

 ●6か国協議は破綻?

 韓国政府は「哨戒艦問題」が解決されない限り、6か国協議に応じられないとの立場だ。

 韓国政府にとって「哨戒艦問題」の解決とは、北朝鮮が関与を認め、謝罪し、責任者を処罰することにある。しかし、北朝鮮が事件の関与を否定している限り、韓国政府が6か国協議再開の前提条件としている事件の解決は不可能に近い。まして、事件が金正日総書記の指示によって引き起こされたなら、責任者の処罰は望めようがない。

 北朝鮮が関与を認めなくても、国連又は米国や日本など有志連合が韓国側の立場に立ち、北朝鮮を非難し、制裁を科すような措置を取れば、ある程度納得し、一定期間を置いて、6か国協議の再開に同意するかもしれないが、仮に国連安保理が制裁を強化するとか、米国が再び、北朝鮮をテロ支援国に指定すれば、北朝鮮が猛反発し、米国が核問題解決の最良の方法としている6か国協議は破綻するかもしれない。それどころか、北朝鮮は3度目の核実験やテポドンミサイルの発射実験に踏み切ることも考えられる。6か国協議が開かれなければ北朝鮮は何の束縛も規制も受けずに核開発を継続することができる。

 北朝鮮の公表とおり、プルトニウムの増産と核兵器か、濃縮ウランの開発に続き、核融合反応に成功したならば、ウランやプルトニウムを原料とした核兵器よりはるかに強力な水素爆弾の開発にも着手するかもしれない。

 韓国政府は「先哨戒艦、後6か国協議」との方針を決めているが、6か国協議が遅れれば遅れるほど核問題の解決が遅れる。「核兵器のない地球」「核のない世界」を目指すオバマ政権にとって北朝鮮の核問題の解決の平和的手段の術を失いたくはない。6か国協議再開のために米国が最後は、韓国のはしごを外すことがないとは言えない。

 ●経済制裁の損得

 第3国を経由した間接貿易がスタートした1989年時の貿易量は1,872万ドル。

 船舶を利用した海上輸送による直接貿易が始まった2000年4月時点での南北貿易額は4億3千万ドルと急増した。2008年の南北貿易額は18億2千万ドルで、南北貿易は直接貿易により8年間で4.5も伸びた。

 ※南北交流関係統計

 南北交易 2000=4億2千5百万ドル、08年=18億2千万ドル

 訪朝人数 2000=7,280人、   06=100、838人

 南北交易が中断すれば、北朝鮮は年間3億7千万ドルの損失を被り、8万人が失業する。北朝鮮は一般交易の農水産物搬出を通じて年平均2億3千万ドルの外貨を手にしていた。また、委託加工交易の衣類やニンニク栽培などで5千万ドルの外貨を稼いでいた。

 韓国が開城工業団地を除く一般交易と委託加工交易を30%〜50%を縮小しただけで北朝鮮は年間2億ドル相当の被害を被る。委託加工交易だけを30%縮小しただけで北朝鮮の外貨稼ぎは8千万ドルも減少する。また、1万人以上の労働者が仕事を失い、失業の憂き目にあう。

 ▲開城工業団地事業の全面凍結

 開城工業団地事業が正常に稼動しなければ、北朝鮮は4千9百万ドルを失う。開城工業団地が全面中断となれば、北朝鮮側の労働者4万2千人と下請け業者の3千5百人合わせて4万5千人が仕事を失う。また、一般交易で1万人、委託加工工業で2万人がそれぞれ失業する。

 しかし、開城工業団地の閉鎖のような独自制裁は、すでに貿易の70%を占めている中国に依存させるだけだ。仮に北朝鮮が対抗措置として北朝鮮が開城工業団地で操業している韓国企業を締め出せば、120の企業に大きな被害が発生する。

 北朝鮮は外貨誘致の機関である朝鮮大豊国際グループのパク・チョルス総裁が中国投資団一緒に開城工業団地を視察している。北朝鮮が韓国企業を締め出して、中国企業に開放する可能性が高い。

 ※開城工業団地(2003年着工。2005年操業開始)

 韓国(韓国土地公社)は開城工業団地開発に2002年12月から2007年12月までの5年間で国庫支援費1兆5千億ウォン(当時の円で1500億円)と独自の事業費として1,131億ウォン(113億円)合わせて総額で2,641億ウォンを投資した。

 韓国統一部と韓国貿易協会によれば、開城公団事業関連の南北交易規模は2007年の4億4000万ドルから2008年には2倍の8億800万ドルと、83.6%も増えた。 

 南北交易全体に占める比重も2007年の25.4%から2008年は44.4%に増加。開城公団関連交易額(8億800万ドル)は北朝鮮総交易額(51億5300万ドル)の15.7%を占める。

 韓国国会立法調査庁は開城公団閉鎖の場合、韓国企業が被る直接的経済損失額は1兆3600億ウォン(1360億円)に達すると分析。

 仮に開城工団が完全に閉鎖された場合、北朝鮮側の年間外貨収入損失額は420億ウォン(米ドルで2,800万ドル)に達するが、韓国側は5千億ウォン以上の投資額を損失する。

 開城工業団地が2012年に完成(最終的には2千万坪の工業団地となる)すれば、韓国経済に年間で2兆4千4百億ウォン(2440億円)の付加価値をもたらすが、開城工業団地から追放されれば、現在建築中の工場が完成した場合に創出される2兆4千9百ウォン相当の経済的効果を失うことになる。

 ▲金剛山観光(1998年11月開始、2008年7月11日中断)

 金剛山観光客は1998年が1万人だったのが、2007年には34万8千人に達した。08年は7月11日に韓国人女性観光客射殺事件が発生し、観光が全面ストップしたが、事件が発生するまで約20万人の観光客が訪れていた。ちなみに08年の目標は55万人だった。08年7月に中断するまでの過去10年間で延べ193万4千人が観光。その結果、北朝鮮は07年、金剛山観光料として2、038万ドルの外貨収入があった。08年も上半期分(約20万人分)の観光代金として1,074万ドルを受け取っていた。下半期に24万−27万人ほどの観光客が金剛山を訪れる予定だった。

 金剛山観光が再開できなくなる場合、北側の経済的損害は1350万−1500万ドル(約14億3100万−15億9000万円)と推定されている。

 ▲南北鉄道連結(2000年着工、2007年5月試験運行)

 京義線(南の文山―北の開城間の27.3km)は56年ぶり開通、東海線(北の金剛山―南の猪津(チェジン)の25.5km)も57年ぶり

 韓国が投じた鉄道連結費用の総工費=5,454億ウォン(698億円)。※そのうち北朝鮮の鉄道復旧支援金は全体の3分の1=1,809億ウォン。2006年3月に竣工した南北出入事務所には物流施設のヤード調整費用を含め総額で1,513億ウォンが投じられた。

 月曜から金曜まで週5回運行されてきた京義線鉄道は、08年11月28日を最後に運行が中断したままである。

 京義線が復活すれば、南北交易規模は大幅に増大する。仮に毎年30%増えたとすれば、5年後の南北交易量は約5倍(約65億ドル)に跳ね上がることになる。6年もすれば、投資(112億ドル)額に匹敵する。

 京義線が貫通すれば韓国−EU間の物量の20%、日本−EU間の物量の5%を京義線―シベリア横断鉄道で運ばれることになる。それに伴う南北の年間運賃収入は2010年には韓国が4千36億ウォン、北朝鮮が7千200億ウォンと推定されていた。

 仮にこのまま凍結となれば、韓国側は700億円近くどぶに捨てたことになる。

 ▲北朝鮮地下資源の喪失

 韓国が北朝鮮との経済協力を進める狙いの一つは、北朝鮮の地下資源の確保にある。

 北朝鮮には北朝鮮には200種類の鉱物がある。開発価値のある資源としては金、銀、銅、鉄、亜鉛、マグネサイト、石炭、石灰石、黒鉛、チタン、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルト、マンガン、クローム、ウランなどがある。韓国にほとんどない希少なレアメタルが埋蔵されている。

 金額に換算した場合、大韓鉱業振興公社南北資源協力チームの報告書「北朝鮮鉱物資源の経済的効果と合理的開発方案」(2006年)によると、日本円で375兆円。チェ・ギョンス南北交流支援委員会資源開発室長が07年11月23日に公表した統計では480兆円に達する。

 韓国公社は北朝鮮の黄海南道の県村の黒鉛鉱山を2003年に合弁契約を交わした。1,020万ドルを投資し、鉱山生産目標は年間3千トン。韓国公社は今後15年間、毎年1,830万トンを輸入(韓国国内需要の20%)することになっていた。

 また、衣類、履物、石鹸生産に必要な8千万ドル(99億円)相当の原材料の提供を見返りにマグネサイト採掘権を得ていた。

 ※南北は07年4月に行なわれた南北経済協力推進委員会第13会議で、韓国側が衣類、履物、石鹸の生産に必要な軽工業原料8千万ドル相当を北朝鮮に有償提供し、北朝鮮が見返りとして地下資源生産物、開発権などを提供することで合意していた。

 韓国の端川の検徳の亜鉛鉱山、端川の竜陽マグネサイト鉱山、端川の大興マグネサイト鉱山への投資が完了すれば、年間3千3百億ウォン(330億円)、今後30年間で10兆ウォン(1兆円)の価値の鉱山物が生産できることになっていた。

 ●北朝鮮商船の済州島海峡通過は不許可?

 韓国は2005年8月に採択された南北海運合意書に基づき北朝鮮商船の済州島海峡の通過を許可してきた。西梅〜東海を往来する北朝鮮商船に航路の短い済州島海峡はメリットが大きかった。しかし、不許可にすれば、北朝鮮はこれまで認めてきた韓国航空機の北朝鮮上空通過禁止という対抗措置を取ることも考えられ、そうなれば韓国も大きな損失を被る。

 ●李明博政権の対北政策は破綻?

 韓国が北朝鮮との全面対決に出れば、政権発足時の李明博大統領の公約だった「相生・共栄の南北関係」は完全に破綻することになる。李明博大統領が打ち出した南北関係の3大目標である「非核・開放3000」の履行も、相生の経済協力の拡大も、互恵的人道協力の推進も看板倒れとなる。

 韓国にとって最も切実な問題である離散家族の再会は不可能となる。国軍捕虜・拉北者問題の解決も遠のく。現在、9万人以上の離散家族が再会事業の再開を待っている。このうち90歳以上の高齢者が3千人もいる。毎年3千〜4千人が死亡していることから李大統領は80歳以上の高齢離散家族の問題を最優先的に解決すると宣言していたが、これが不可能となる。

 南北離散家族は1985年に初めて、たった一度だけ行われた。157人の離散家族の再会ができた。しかし、金大中政権の2000年から2007年までは延べ1万6212人の再会が叶った。李明博政権にとって昨年苦労して再開させた離散家族再会事業が凍結するのは大きな痛手である。

 李大統領自身も南北対話について「北との対話及び交流にも最善を尽くす。南北関係は政権が変わっても南北間の和解と平和を維持するための努力を一層やるつもりだ」と約束し、「南北関係は今までよりもより生産的に発展しなければならない。理念ではなく、実用的に解決しなければならない。南北の住民亜幸せに生活でき、統一の基盤をつくるのが我々の目標である」と、北朝鮮から罵倒されながらも南北関係改善に意欲を示していたが、今回の哨戒艦事件で、すべて断念せざるを得なくなる。

 年内実現に向けて水面下で接触をしてきた南北首脳会談も絶たれることになる。金大中―盧 武鉉武政権下で続いた南北首脳会談も李明博政権下で断絶することになる。李大統領は08年4月17日、CNNとのインタビューで金総書記に「朝鮮半島の真の平和と繁栄のため共に力を合わせようと言いたい。金委員長はこうした発展的関係を形成するうえで重大な決定を下すことができると信じている。私が就任した以後南北関係が悪化したとは思っていない。むしろ南北関係が新たな局面に入ったとみている」と呼びかけていたが、現実はその逆となった。換言するならば、北朝鮮の魚雷攻撃で李明博大統領の対北政策は破綻させられたことになる。

 ●ワールドカップの2022年誘致は?

 韓国は2022年のワールドカップ(W杯)の開催誘致を目指している。李明博大統領も5月19日に訪韓したアフリカサッカー協会会長に2022年の韓国誘致への協力を要請していた。

 韓国以外にカタール、豪州、米国、そして、2018年の誘致を断念した日本が名乗りを上げている。

 カタールは中東初を、アジアNo.1にのし上がった豪州もオセニア初の開催を売り物に誘致する構えだ。

 サッカー強国になりつつある米国は1994年以来、28年ぶりの開催ということで2002年に開催したばかり日韓よりも立っているとみられており、加えて、巨額の放映権とスポンサーがセールスポイントとなっている。

 韓国のライバルである日本は経済力と運営力、さらには設備の面で韓国よりも優位に立っている。「次世代W杯」と銘打って、世界の子どもたちの交流推進や、最先端技術を駆使した大会をアピールする。

 日本よりも先に2022年に名乗りを挙げた韓国が激しい誘致合戦に勝つには、W杯の南北共同開催を切り札にするほかない。1988年に名古屋に逆転し、ソウル五輪を誘致した際に使った手である。南北共催は、朝鮮半島の安定と平和と統一に寄与するとの「大義名分」を全面に出し、共感を得る以外に勝算はない。

 だが、今回の天安艦事件で南北関係が悪化すれば、「南北共催」というカードは使えない。北朝鮮も韓国を支持するどころか、反対に回るだろう。

 鄭夢準大韓サッカー協会名誉会長は「現在は、天安艦事件で軍事的緊張が高まっているが、2022年まで12年もある。その時になれば、南北関係は重大な変化が起きているかも」と発言しているが、2022年開催が決まるのは、2002年でなく、今年12月である。それまでに南北関係が修復されなければ、W杯の開催は夢物語となるだろう。