2011年1月13日(木)

「ONE YES, THREE NO」政策

 ゲーツ米国防長官が「5年以内に北朝鮮が大陸弾道弾ミサイル(ICBM)を配備するかもしれない。そうなれば、米国の安全保障にとって極めて脅威」との発言があった。

 北朝鮮の核攻撃のターゲットは究極的には米大陸である。すでにプルトニウム型の核爆弾を手にしているが、平壌から直線で8千キロ離れた米西海岸に到達可能なミサイルは完成、配備されていない。1998年から過去3度行なわれたテポドン・ミサイルの発射実験もいずれも失敗に終わったとされる。

 しかし、当たり前のことだが、実験を繰り返せばいつの日かは、核爆弾の運搬手段までゲットすることになる。「5年以内」とは、ミサイルの発射実験を続ければ、最短で1〜2年内の可能性もあるということだ。そうなれば米国としては悪夢だろう。これまた当然のことだが、米国の安全保障にとって重大な脅威となる北朝鮮のテポドン発射実験をこれ以上放置するわけにはいかないだろう。

 仮にICBMを持ったとしても、北朝鮮はまだICBMに搭載可能な核爆弾の小型化、軽量化には成功していないと言われている。2006年、2009年の過去2度の核実験もいずれも失敗に終わったとされている。しかし、これまた3度、4度と核実験を続ければ、時間の問題で、そのうち核爆弾の小型化にも成功するだろう。

 北朝鮮はこれまでテポドン発射実験と核実験をセットで、ほぼ同時に行なってきた。2006年の時は7月にテポドン、10月に核、2009年には4月にテポドン、5月に核実験を実施した。米国としては、テポドン同様に北朝鮮にこれ以上、核実験を続けさせるわけにはいかない。放っておくと、いつの日にか開発中のウラン型核爆弾の実験を試みるかもしれない。これまた米国にとって見たくもない悪夢だ。

 北朝鮮の核爆弾も開発技術も幸いまだ海外には搬出されていない。数年前にシリアへの搬出疑惑があったが、疑惑のシリアの核施設はイスラエルの空爆で破壊され、事なき終えている。

 今は、ミャンマへの協力疑惑が浮上しているが、まだ確証を掴めていない。米国が恐れているのは、米国を狙っているアルカイダをはじめとするテロ集団の手に渡ることだ。

 米国の都市をターゲットとした核テロが行なわれれば、「9.11」の被害どころではない。米国とすれば、北朝鮮の核が海外に流出されるのを阻止しなければならない。北の核の制御作戦が、朝鮮半島有事あるいは北朝鮮内部崩壊を想定したシミュレーションに含まれているのもそのためだ。

 北朝鮮は米国が敵視政策を放棄せず、核攻撃の対象から外さず、国際的な圧力と制裁で北朝鮮の窒息、体制瓦解を画策するならば、対抗手段として米国に反対する勢力への搬出も辞さないと米朝交渉でかつて言及したこともあった。それだけに、この核の流出も、米国は何が何でも阻止しなくてはならない。

 こうしたことから米国の専門家の間ではオバマ政権が北朝鮮核問題への対応として「ONE YES, THREE NO」政策を取るのではと囁かれている。

 「ONE YES」とはプルトニウム型核爆弾をすでに持っていることから実質的に核保有国であることを認めたうえで、交渉に臨み、第一段階ではこれ以上、増やさない(ウラン核開発はしない)、これ以上改良しない(核実験はしない)、そして絶対に搬出させないという3点での合意を目指すというものだ。その上で、次の段階で北朝鮮にウクライナ方式を適応し、最終的にプルトニウム型核爆弾を放棄させるという構想だ。

 過去に核爆弾を手放した国は2カ国ある。南アフリカとウクライナである。

 南アフリカの場合、自主的に廃棄した。大統領選挙で負けた白人政権のクラーク政権が黒人のマンデラ政権に核爆弾を渡すわけにはいかないと、自ら申告し、廃棄した。それまでクラーク政権は「持っていない」と疑惑を否定していたが、実際には保有していたわけだ。

 ウクライナには旧ソ連時代にNATOを標的にした核兵器1,800発とミサイル176基が配備されていた。ところが、ソ連から分離、独立した瞬間、ウクライナは必然的に世界第3位の核大国となった。

 当初ウクライナはロシアの脅威に対抗するため核を手放そうとしなかった。最終的に米ロ及び英国とフランスが共同で安全保障と経済支援を担保したことで1994年になって核兵器とミサイルを破棄している。

 米政府内には北朝鮮にこの「ウクライナ方式」を適応する動きがある。最終的には米中及び日露の4カ国が北朝鮮への安全保障と経済担保をすることで北朝鮮に核を放棄させる道を考えているようだ。

 北朝鮮が求めている平和協定、関係正常化、経済支援の3枚のカードをどの段階で切るかは、北朝鮮の出方次第だが、いずれにしても、外交交渉による解決を目指す限り、現実的には上記のような選択しかないだろう。