2012年3月21日(水)

韓国の人工衛星発射時との違い

 北朝鮮は1998年の時は、事前通告なく、日本海、三陸沖に向けて発射した。そして発射から4日後「人工衛星の打ち上げに成功した」と唐突に発表した。

 発表が4日も遅れたことについて「最初から公表することを決めていたが、衛星打ち上げ成功を確信し、測定資料などを収集した後で公表することにしていたため」と釈明した。また、事前通告しなかったことについては「その国の主権に属する問題であり、誰に対しても事前通告する義務はない」と開き直った。

 当時、日本海あるいは三陸沖海域には漁船が多数操業し、民間航空機も通過時には7機飛来していた。事前通告せずに発射するとは、暴挙極まりなかった。仮に日本国内、あるいは米軍の三沢基地に着弾していれば戦争に発展したかもしれない。

 事前に航空禁止区域を宣言しなかったことで国際的批判を浴びたことから2009年の時は「4月4−8日の間に人工衛星を打ち上げる」と事前発表し、さらに宇宙条約にも加盟し、国際民間航空機機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)に通告していた。また、米国にも事前通告していた。これが、1998年の時との違いだ。

 しかし、北朝鮮は発射したものは、試験用通信衛星でいずれも「打ち上げに成功した」と発表した。衛星がちゃんと軌道に乗り、地球を周回し、衛星から電送されるモールス通信を地上でキャッチできれば、人工衛星ということになる。

 北朝鮮は「衛星は軌道を順調に周回しており、衛星からは『金日成将軍の歌』の旋律がモールス通信によって地球に電送されている」と主張した。市民らが上空を見上げ、指差しているそれらしい写真まで流していた。

 前回も、470メガヘルツのモールス通信から「金日成将軍の歌」「金正日将軍の歌」が電送されていると主張したものの、陸を接している韓国、中国、ロシアを含め北朝鮮以外のどの国も傍受、受信できなかった。

 北朝鮮は人工衛星の根拠について「弾道ミサイルは最終段階で地球の水面と40〜45の傾斜角を取り、弾道の航路に沿って大気圏内に再突入するが、三段目のエンジンに点火する時、地球の表面と水平を維持しながら、軌道に沿って周回した」と説明した。そして、二週間後の9月14日には労働新聞を通じて衛星の写真を公開した。但し、サイズや重量など詳細については一言も触れてなかった。

 韓国や日本は「発射推進体は軌道に乗るのに必要な速度には達していなかった」と真っ向から反論した。北朝鮮の友好国ロシアも北朝鮮を庇ったものの「人工衛星は確認できなかった」との立場を取った。これにより、北朝鮮の人工衛星の主張が国連では却下され、国連安保理は北朝鮮を非難する議長声明を採択した。

 その後、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどは米政府当局者の話として「人工衛星の可能性が大」と報じ、米国防総省も最終的には「テポドンで人工衛星を打ち上げようとしたようだが、失敗した」と、「テポドンによる衛星打ち上げ説」に傾いた。

 日本もしばらくして防衛庁が最終報告書で「地球周回軌道上に極めて小さな物体を投入した可能性が全くないわけではない」と記述し、「人工衛星説」を完全には否定しなかった。要は、衛星が軌道に載らなかったことがすべてだ。

 仮に今回も発射が人工衛星で、成功したとしても、「いかなる弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施してはならない」と警告した国連決議の違反ということで北朝鮮は国際社会から非難の的となる。

 ロケット発射推進体は、ミサイルを改良したものなので、原型はテポドンと変わりはない。事実、北朝鮮もかつて「軍事用にも転用できる」と言ったことがある。前回も発射実験の後、金英春人民武力相は「軍事的勝利」と口走っていた。国連の決議に反発し「大陸間弾道弾ミサイルを発射」すると表明した国がいくら「平和利用」と言っても信じる国はいないだろう。

 北朝鮮が今回は外国から専門家や報道陣を招き、公開する用意があると表明したところをみると、人工衛星を打ち上げるのだろう。人工衛星ならば、北朝鮮が宇宙条約の加盟国である以上、迎撃することは国際法上許されない。

 しかし、万が一に備えるのは当然のことだ。落下物を撃ち落とすことは国際法、国内法でも許される。それでも「迎撃」という表現はどぎついし、物々しい感じがする。

 というのも、隣国である韓国からも2009年、10年と日本に最も近い最南端の全羅南道高興の羅老から人工衛星が打ち上げられたが、この時は、日本では「迎撃」の議論は全く起きなかったからだ。

 衛星を搭載した韓国のロケットは九州と沖縄の間を飛来することになっていた。機器が故障すれば軌道を外れて鹿児島など日本列島あるいは日本の領海に落下するかもしれない。2度経験のある北朝鮮と違って、韓国は「初体験」でリスクという点では北朝鮮のそれよりも韓国のほうが高かった。現に、二度とも落下、爆破して、失敗に終わっている。それでも日本では迎撃の動きはなかった。

 あまり騒ぎすぎるのは、北朝鮮の思うつぼで、日本はもう少し沈着冷静に対応する必要があるのでは。