2011年12月8日(金)

ミサイルの凍結か、濃縮ウランの停止か

 北朝鮮が米国を攻撃できる移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発中だと、米紙ワシントン・タイムズ紙が6日に報じていた。

 報道によると、11月中旬に米下院軍事委員会の小委員会で開かれた非公開会議の場でミサイル開発情報が公開されたとのこと。北朝鮮が現在開発中のICBMはミサイル昨年10月に初公開された「BM25(ムスダン)」の改良型とみられているようだ。

 北朝鮮によるICBM開発は何ら機密ではない。公然たる事実である。というのも北朝鮮は一昨年4月14日に外務省声明を通じて「我々の自主的な宇宙利用権利を引き続き行使する」と述べ、今後も人工衛星と称してミサイルの発射を継続すると宣言していた。さらに2週間後の4月29日には「大陸弾道弾発射実験をする」とICBMの開発を進めていることも示唆していた。

 今回の報道で注目されるのは、このICBMが固定式発射台からではなく、移動式発射台から発射されるからだ。

 移動式ミサイルは、基地からの固定発射型と比べ、情報収集衛星による探知が難しく、また発射に要する時間も短いため、迎撃が困難とみられている。

 北朝鮮による移動式発射もすでに既定の事実である。北朝鮮は上記の外務省声明の半年後の10月12日、旧ソ連の地対地ミサイルの改良型(KN-2ミサイル)5発の発射実験を実施したが、使われた燃料は固形燃料で、移動式発射台から発射されている。さらに発射されたミサイルの中には弾道ミサイルも含まれていたと当時、報道されていた。

 北朝鮮のICBM開発についてはゲーツ米国防長官(当時)が今年1月、「5年以内に北朝鮮が大陸弾道弾ミサイルを配備するかもしれない。そうなれば、米国の安全保障にとって極めて脅威である」と発言し、また6月にも同様の発言を繰り返していた。こうしたことから米下院軍事小委所属の議員らは憂慮の念を伝える書簡をパネッタ国防長官に送ったそうだ。

 米国が脅威に感じているミサイル発射実験については金正日総書記が8月に訪露した際、メドベージェフ大統領との首脳会談で「6か国協議が再開されればその過程で凍結する用意がある」と表明している。このことは10月にスイスで行われた今年2度目の米朝高官会談でも米国側に伝達されている。

 米国はそれでも6か国協議の再開には同意しなかった。米国にとっての最優先事項はミサイルではなく、濃縮ウランだからである。従って、6か国協議再開には北朝鮮が進めている濃縮ウラン及び軽水炉建設の停止が何よりも先決条件であると一歩も引かなかった。

 現在、訪韓中の米国のデービース北朝鮮担当特別代表は、韓国の林聖男6か国協議首席代表らと会談し、6か国協議を再開するには北朝鮮による非核化に向けての事前措置が必要であると、改めて米国の立場を強調していた。

 米国は一貫して「対話のための対話はやらない」(アメリカ デービース北朝鮮担当特別代表)と主張しているが、どうやら北朝鮮も同様の考えで、米国がその気(北朝鮮との和解)になるまでいつまでも待つ構えのようだ。そして、それまでの間にプルトニウムに続き、濃縮ウランも、ICBMも手にする構えのようだ。従って、米国が北朝鮮と結婚する気になった時には相当な「結納金」がかかるかもしれない。

 北朝鮮が濃縮ウラン活動の一時停止で譲歩するのか、それとも米国がミサイル発射実験の凍結で妥協するのか、もうしばらく我慢比べが続きそうだ。