2013年9月17日(火)

再浮上した北朝鮮の「核カード」

 米朝協議や6か国協議の再開には「北朝鮮が核問題で誠意を行動で示すこと」と前提条件を突き付けた米国に対して無条件再開を譲らない北朝鮮は、ならばとばかり、5年間中断していた寧辺の黒鉛型原子炉(5千kw級)を再稼働させたようだ。

 黒鉛型原子炉は北朝鮮が1987年に独自に建造したもので、年間6〜7kgのプルトニウム、即ち約1発の核爆弾の製造が可能だ。

 北朝鮮は、2009年4月の国連安保理のミサイル発射制裁決議に反発し「自衛的核抑止力を強化する」(外務省声明)として、水槽に保管されていた8千本の使用済み燃料棒の再処理を宣言。1ヵ月後の5月25日の核実験への新たな制裁決議には「プルトニウムを兵器化する」と公言し、新たに核兵器1個分を手にした。それでも、封印、凍結していた黒鉛型原子炉には手を付けてなかった。

 しかし、昨年12月のテポドン(人工衛星)発射に国連安保理が制裁決議「2087」を採択した際には「核抑止力を質量ともに拡大強化する」と対決色を鮮明にし、そして今年2月の核実験で再度、制裁決議「2095」が採択された際には原子力総局による黒鉛型原子炉の再稼働表明に至った。

 北朝鮮は2009年4月の外務省声明で軽水炉の建設も宣言していた。

 軽水炉については翌年の2010年11月に訪朝したブッシュ政権で朝鮮半島和平担当特使を務めたプリチャード韓米経済研究所所長に「2012年の完工を目標に、寧辺地域で10万キロワット規模の実験用軽水炉建設を進めている」ことを明らかにしている。

 米ジョンズ・ホプキンス大のウェブサイト「38ノース」は今年5月1日、軽水炉について「ほぼ完成した」と分析。「十分な量の低濃縮ウランがあれば、2013年半ばから試験運転の開始が可能」との見解を示している。年内には軽水炉も稼働する見通しだ。

 燃料の濃縮ウランについては2010年11月に訪朝した核専門家のヘッカー米スタンフォード大教授が「寧辺のウラン濃縮施設で1000基以上の遠心分離機を見た」ことを明らかにしていたが、労働新聞は「数千基の遠心分離機を備えた近代的なウラン濃縮工場が稼動している」と報じていた。2千個の遠心分離機で1年間にフル稼働させれば原子爆弾1個製造するに必要な25〜30kgの高濃縮ウランを手にすることができる。

 高濃縮ウランで核兵器をつくれば@プルトニウムより過程が簡単でA費用と時間も節減できる利点がある。同時に軍事面ではプルトニウム爆弾に比べてB軽量化が可能であることから脅威である。また、プルトニウム方式よりも核兵器の製造とC保管が簡単で、加えて精密で複雑な起爆装置を使ってのプルトニウム方式と異なり、DHEU核兵器は単純な装置による爆発が可能だ。

 北朝鮮の核開発再稼働を国連制裁決議違反として、米韓では制裁強化を求める声も上がっているが、黒鉛型原子炉が再稼働したのか、軽水炉が完成したのか、IAEA(国際原子力機構)が現地に要員を派遣し、検証、確認しなければならない。それには、北朝鮮の同意が必要だ。同意を得るには、北朝鮮との交渉、合意が不可欠だ。まさに北朝鮮は、米国を交渉の場に引っ張り出す策として、原子炉に手を付けたものと思われる。

 北朝鮮の狙いは、昨年2月29日に米国との間で交わした合意への回帰にある。

 「2.29合意」と呼ばれる米朝合意は北朝鮮が核実験と長距離ミサイルの発射、寧辺 のウラン濃縮活動を臨時停止し、IAEAの監視を受け入れる条件として米国に@北朝鮮をこれ以上敵対視せず、 自主権を尊重し、関係を改善するA24万d(1億9千万ドル相当)の栄養食品を提供し、 追加の食糧支援を実現するために努力するB文化、教育、スポーツなど各分野で人的交流拡大の措置を講じる C6者会談が始まれば、制裁解除と軽水炉提供を優先的に論議することを約束させている。

 米国は、6か国協議再開の条件として北朝鮮が「2.29合意」で確約した約束事項にプラスアルファを要求しているが、プラスアルファどころか、逆にマイナスとなった北朝鮮の「回答」にどう対応するのか、核問題をめぐる米朝の攻防はまさに秋の陣の様相を呈している。