2009年1月15日(木)
オバマ政権の誕生
オバマ政権が1月20日に正式に発足する。世界中の耳目がワシントンでの就任式に集まるものと思われるが、北朝鮮も例外ではない。オバマ政権は北朝鮮にとっては待ちに待った政権であるが故だ。
米大統領選挙の結果が出るまで平壌を訪問(10月28−11月1日)し、北朝鮮の高官らと意見を交換していた米ジョージア大のパク・ハンシク教授は「北朝鮮はオバマ政権発足を機に米国の関係改善を切に願っていた」と、平壌の雰囲気を伝えていた。
パク教授が占うように「オバマ政権が発足すれば、半年から1年の間に朝鮮半島に大きな転機が訪れる」のかどうかは未知数だが、金正日政権からすれば、チャンス到来とばかり対米外交を積極的に展開することになるだろう。オバマ大統領就任式に金桂寛外務次官を出席させたいと打診したことでも並々ならぬ意気込みが感じられる。
8年前のクリントン政権最後の年の2000年11月の大統領選挙で、仮に後継者のゴア副大統領が歴史的僅差で負けなかったら、あるいは中東問題が再燃しなかったならば、当時クリントン大統領が訪朝し、米朝首脳会談が実現したと金総書記は残念がっていた。この年の10月23日、オルブライト国務長官が米国の現職閣僚としては初めて訪朝し、金正日総書記とクリントン大統領の訪朝を協議したことは周知の事実だ。
オルブライト氏は「安保と経済支援が保障されれば、金総書記が軍事的に譲歩する準備ができていることが分かった」と断言したうえで、「米国には人命損失の負担を抱えてまで北朝鮮を攻撃できる力がない」とし「結局(交渉を通じ)北朝鮮を『以前よりは脅迫的でない存在』に作るのが最善である」との考えを表明していた。
しかし、クリントン前大統領は中東問題に追われていたため米大統領としては史上初の訪朝を断念せざるを得なかった。クリントン前大統領は、機会ある度に「(オルブライト訪朝結果を基に)北朝鮮に行けば、ミサイル協定を締結できると確信していた」として、「任期中にそれが実現できなかったことが最も悔やまれる」と語っていた。
民主党から政権を奪ったブッシュ共和党政権はクリントン政権が交わした1994年の「ジュネーブ合意」を「失敗」と規定し、経済制裁の解除にも反対した。ブッシュ大統領は02年1月28日の一般教書で「北朝鮮は国民を飢えさせながらミサイルと大量殺傷破壊兵器で武装する政権だ。イラン、イラクと並ぶ悪の枢軸国である」と金正日政権に対する嫌悪感を露にし、対決姿勢を鮮明にした。
それから7年経った今、憎きブッシュ政権が退陣し、「大統領に当選した最初の年に(金総書記と)会う用意がある」と、クリントン政権の政策を継承する人物が登場するわけだから北朝鮮にとってはまさに千載一遇のチャンスと言っていいだろう。
「オバマ外交」の政策を立案し、推進するのは副大統領となるジョセフ・バイデン上院議員とヒラリー・クリントン次期国務長官の二人だ。
ブッシュ大統領の右腕であるチェイニー副大統領が圧力政策を主導してきたとすれば、バイデン次期副大統領もヒラリー次期国務長官も対話重視派だ。例えば、ハイデン氏は北朝鮮が3年前、ミサイル発射と核実験を強行し、危機が高まった際には「圧迫を強化するだけでは不十分だ」として北朝鮮担当調整官を復活させ、米朝対話の道を模索すべきと主張した。ブッシュ政権が北朝鮮に圧力政策をとっていた最中の2004年にはホワイトハウスを説得し、ニューヨークの国連本部から25マイル離れた場所への移動が禁じられていた北朝鮮の韓成烈公使のワシントン訪問を実現させた。
ヒラリー氏も米国外交専門誌「フォーリン・アフェアズ」に寄航した論文「21世紀の安保と機会」の中で「ブッシュ政権が北朝鮮やイランのような敵性国家との対話に反対したのは逆効果をもたらす戦略だった。まじめな政治力を発揮するには敵性国家との交流が必要であり、活発な外交活動はそうした目標を達成するための前提条件である」と敵性国家である北朝鮮との対話を積極的に推進する考えを明らかにしている。1月13日、米上院外交委員会で開かれた公聴会に出席したヒラリー次期国務長官は北朝鮮の核計画放棄に向け「精力的な取り組み」を約束した。
問題は核計画の検証問題で対立した米朝の溝と停滞した6か国協議をオバマ政権がいかにさばくかにかかっている。
オバマ氏は、ウラン濃縮や核拡散の解明を含む「北朝鮮の核兵器計画の完全かつ検証可能な放棄」が引き続き目標となると再三にわたって強調しており、もし北朝鮮が厳格な検証を認めない場合は、「エネルギー支援の停止や解除した制裁の復活、新たな制裁に関して、米国が主導していくべきだ」との考えを持っている。昨年2月には上院外交委員会の場で「北朝鮮に幻想は抱いていない。我々は朝鮮半島の非核化を守るため断固でなければならないし、そのためには譲歩してはならない」とさえ語っている。
ヒラリー氏も「当選した年には会わないで、外交努力をする。彼らの意図がわかるまでは(米朝)高位級会談をやる考えはない」と慎重な姿勢を崩していない。
一方北朝鮮もオバマ政権発足を前に外務省を通じて13日、「米国の対北朝鮮政策が転換され、核の脅威が取り除かれなければ、核兵器を放棄することはない」との立場を表明しました。「米国の対朝鮮敵対視政策と核脅威の根源的清算なくしては、100年経とうとわれわれがまず核兵器を放棄することはない」と強調し、国交正常化、平和協定の締結、そして韓国を含めた朝鮮半島の非核化を繰り返し求めていた。
ブッシュ米大統領は12日、ホワイトハウスでの最後の記者会見で「北朝鮮が関係改善を望むなら、核検証体制を受け入れるべきだ」と核放棄を迫ったが、「核放棄が先か、関係正常化が先か」との北朝鮮との恒例の綱引きをオバマ政権がいよいよ引き継ぐことになる。