2012年3月1日(木)
同床異夢の米朝合意!
北京での米朝協議は「大きな進展はなかった」(デービース北朝鮮政策担当特別代表)と「失望した」(金桂寛外務第一次官)と米朝代表とも悲観的な感想を述べていただけに「米朝が合意した」との一報は驚き。
まして、北朝鮮が猛反発していた米韓合同軍演習は27日にスタートしたばかりだ。米朝協議が終了するや否や北朝鮮は国防委員会が25日に、外務省が27日に声明を出し、米韓合同軍事演習を激しく批判していた。
米朝協議の当事者である外務省は「米国がまだ哀悼期間にある我が軍隊と人民に向けて無謀な戦争演習を繰り広げるのは誰が見ても挑発の中の挑発である」と米国を責めていた。北朝鮮に一杯食わされた格好となった。
もう一つ、不思議なことがあった。チームスピリット以来、最大規模と言われる米韓合同軍事演習が始まったのにまだ最高司令部の名で全土に「戦闘動員態勢」が発令されてないことだ。今回の合意があったことから自制したのだろうか。
今回の合意による米朝双方のメリットを計算してみよう。
まず米国側からすると@濃縮ウランの稼働を停止させることで濃縮ウラン核開発を遅らせることができるAIAEA(国際原子力機構)の職員を復帰させることで北朝鮮の核開発の動きを監視できるBミサイル発射及び核実験の動きを止めたことで米国にとって脅威の大陸弾道弾ミサイル(ICBM)の開発及び核小型化、ウラン型核爆弾、さらには水爆爆弾の開発を遅らせることができるC2005年9月の6か国協議共同声明の履行を約束させることで北朝鮮の非核化への道を切り開いたD北朝鮮の核問題の外交的解決はイランの核問題に好影響を与えるの5点だ。
一方の北朝鮮側は、@食糧確保のめどが付いたことで4月15日の金日成主席生誕100周年を迎えことができるA4月に開催される党代表者会での金正恩党総書記就任の環境を整えることができるB6か国協議で制裁の解除と軽水炉提供問題を優先的に話し合うことができるC金正恩の外交成果として誇示することができるの4点が挙げられる。
簡単な話が、米国からすると、米太平洋軍のロバート・ウィラード司令官が28日、米上院軍事委員会の公聴会に出席し、「北朝鮮が食糧支援交渉を進めるための前提条件として、核開発計画と弾道ミサイル試験の中断と、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れが必要」と主張したところをみると、やはり核実験とミサイル発射実験を止めたかったのだろう。
北朝鮮からすれば、一にも二にも、食糧のゲットにあったと言える。
この米朝合意をみて、二つの米朝合意を思い出した。
一つは、北朝鮮のテポドン・ミサイル発射中断につながった2002年10月の「米朝共同コミュニケ」である。
北朝鮮は「ミサイル交渉中はすべての長距離ミサイルの発射を中止する」と約束した。
もう一つは、核施設の廃棄と軽水炉提供で妥協した1994年のジュネーブ合意につながった1993年6月の米朝高官会談後の共同声明である。ここでは、北朝鮮はNPTの脱退を一時保留している。
言うまでもなく、その後はいずれも破棄され、今日にいたっている。
今回の合意にも北朝鮮は「米国との成果ある会談が続く間は」との条件を付けている。北朝鮮の要求が満たされず、会談を継続しても成果がないと判断すれば、核・ミサイル開発を継続すると宣言したも同然だ。
金正日総書記だからこそ6か国協議共同声明で核放棄の手形を切ることができたが、今の金正恩に軍部を説得し、この手形を落とすことが果たして可能だろうか。今年1月15日に北朝鮮が祖国平和統一委員会の名で「核保有国としての地位をさらに強化していく」と宣言している。よほどの見返り、高い代償がない限り、簡単には核開発は断念しないだろう。