2011年9月12日(月)

米国の「待機戦術」を北朝鮮は時間稼ぎに利用

 週末の9日は北朝鮮の建国記念日だったが、軍事パレードがあった。正規軍のパレードではなく、予備軍の「労農赤衛隊」によるパレードだったが、節目の年でもないのに行われるのは極めて珍しい。「労農赤衛隊」のパレードは、3年前にも行われているが、この時は建国60周年という節目の年だった。

 韓国の北朝鮮関連メディアは北朝鮮の権力中枢に関する内部情報を様々な「消息筋」を引用し、競って報じているが、北朝鮮の国営通信が当日にパレードを発表するまで韓国のどのメディアもキャッチできなかった。極秘に進められる核実験とは違い、平壌市民を含め何十万人も動員され公然と行われるパレードなのに北朝鮮の内部に精通すると言われているそれら様々な「情報筋」や「消息筋」が全く知らなかったとはおかしなことだ。

 軍事パレード開催の狙いについて日韓のメディアは、正恩氏が後継者に決まって初めて開かれる軍事パレードであることから党軍事副委員長としての指導力をアピールすることにある、後継体制が順調に進んでいることを内外にアピールすることにあると報じているが、6か国協議再開を前に軍事体制の盤石ぶりをアピールすることが最大の狙いのようだ。

 というのも、今夏は、北朝鮮と中露間で大きな軍事的な変化があった。

 ロシアとでは日本海(東海)沖で合同軍事演習を20年ぶりに実施することになった。実施されれば、ソ連邦解体後初の合同軍事演習である。

 韓国当局は、海上遭難船舶捜索及び救助訓練など非軍事的な訓練であり、朝鮮半島有事を想定して毎年行われている米韓合同軍事演習とはレベルが違うと、楽観しているが、ロ朝合同訓練がスタートは人道を目的とした訓練であっても段階的にレベルアップしないとの保障はない。

 今夏の金正日訪ロによるメドベージェフ大統領との首脳会談とは別途にロ朝間ではアナトリー・セルジュコフ国防相と金英春人民武力相間の国防長官会談も行われている。そして、8月25日にはコンスタンチン・シデンコ司令官を団長とするロシア連邦軍東部軍管区代表団が訪朝し、朝鮮人民軍の李英鎬総参謀長と会談している。こうした一連の動きをどう見るかだ。人道が目的とは片づけられない。

 一方、中国との間でも、日本や韓国にとって憂慮すべき動きがあった。中国人民解放軍が8月4日、中朝条約締結50周年を記念し、中国の北海艦隊の練習艦隊が北朝鮮の元山港に入港した。中国海軍訓練艦隊の北朝鮮訪問はこれまた1996年以後15年ぶりのことである。

 元山に寄港した「?陽」「鄭和」など北海艦隊を北朝鮮の鄭明道海軍司令官と朴在京人民武力部副部長が訪れ、歓待し、北海艦隊司令官の田中中将は平壌で金英春人民武力部長を表敬訪問し、会談している。

 上海協力機構の盟友である中国とロシアは来年には太平洋西部海上で合同軍事演習を実施する計画である。これまた初めてのことである。

 そして、中国と北朝鮮との軍事協力関係を強めたロシア海軍は数日前にフリゲート艦やミサイル巡洋艦20数隻を北海道と樺太の間にある宗谷海峡を通過させた。千島列島付近に設定した訓練海域で、どうやら大規模な総合演習を行う模様だ。

 ロシアが中朝と3角同盟のような関係を構築することはないと思うが、一連の行動がロシアは北方領土を、中国は尖閣諸島を想定していることは言うまでもない。 

 ロシアのプーチン首相は北方領土を含む千島列島(クリール諸島)のインフラを整備する「クリール諸島社会経済発展計画」に今年12億ルーブル(約31億円)を追加拠出する政令に署名したが、北方領土の実効支配を一層強める構えだ。

 現在、国後、択捉両島へのアクセスを改善するため両島で新空港が建設中であり、また色丹島ではヘリコプター用の空港が建設中にあると報じられているが、北方領土で進められている道路改修などインフラ整備工事現場には北朝鮮労働者が雇用されているのは周知の事実である。

 日本政府は「北方領土のロシアの管轄権を認めることになる」として外国人労働者の北方領土での雇用は受け入れられないとの立場だが、日本と対峙関係にある今の北朝鮮に日本への配慮は微塵もない。

 ロシア極東連邦管区のイシャエフ大統領全権代表は北方領土の経済開発に関連し「日本が来なければ韓国が、韓国が来なければ中国が来る」と強気だ。

 韓国はロシアと極東シベリア開発協力に関する協定を結んでいる。サハリンと西カムチャッカ油田とガス田開発に韓国ガス公社と石油公社が参入するほか、ウラジオとハッサンと羅津を結ぶ450kmの鉄道近代化事業にも関心を見せている。釜山港出発のコンテナ船を羅先からハッサンを通ってシベリア鉄道に連結させるためだ。こうした流れの中で、韓国の企業の中にはロシア企業との合弁で北方領土の事業への進出を決めている企業もある。

 韓国当局者は中朝の軍事訓練について「日米韓の反発を招くデメリットがあるので中国としては慎重にならざるを得ない」と中国の自重に期待を寄せているが、中国軍部が「天安艦沈没事件」や「延坪島砲撃事件」以後の目に余る米韓合同軍事演習の頻度は核放棄の前提となる朝鮮半島の軍事パランスを著しく損ない、朝鮮半島の安全と平和を脅かすものと捉え、北朝鮮の安全保障を担保すると共に東シナ海、南沙での米軍の動きを牽制する必要性から黄海及び日本海(東海)での北朝鮮海軍との合同軍事演習を検討する動きもある。

 6か国協議再開をめぐっては再開の前提条件として提示したウラン濃縮活動の中止など具体的な行動を北朝鮮が取らないことから米国は「泣くまで待とうホトトギス」と徳川家康流の「待ちの戦術」を取っているが、北朝鮮がこの「待機戦術」を逆手に取り「強盛大国の大門を開く年」と宣言した来年に濃縮ウラン爆弾の完成と軽水炉建設の完成、さらには大陸弾道弾ミサイル(ICBM)の開発に向けての時間稼ぎに利用していることも紛れもない事実である。